「秀星、プール行こ」
*
「で、秀星。何なのこの大所帯は?」
「朱ちゃん誘ったら断られたからコウちゃん誘ったらコウちゃんが朱ちゃんを引き摺って来た」
「常守監視官って監視官じゃん、あんまりつるんでたら濁るよ。よくないよ。どっかの誰かさんみたいになっちゃうよ」
「悪かったな」
「いたい!」
狡噛さんに拳骨を落とされたさんが、うわーん、と半泣きで、凄い勢いでプールに飛び込み、「俺も!」縢くんが続き、二人ともばしゃばしゃ泳いで行ってしまった。…泳げるんだ。凄いなあ。
「狡噛さんって、結構すぐ手が出ますよね」
「……あいつが出されるようなことをしてるんだ」
あちらの壁について、返ってきている彼らは、おそらく、競争をしている。すごく速い。クロールでばしゃばしゃ泳いでいるけど、…ここ、水深、3メートルって表示があるのだ。
「…誰も足着かないですよね」
「泳ぐんだ、着く必要が無いだろ」
「………水中ウォーキングみたいなところ、無いですかね」
「常守、やっぱりあんた「っぷは!」「っ!負けた!!」
…そうなのだ。私は泳げない。典型的なカナヅチで、足のつかないところになんて入ったら、ひたすらに沈むはずだ。泳げないとまずいよな、とは思いはするし、教えてくれないかな、いやでも教えてもらったとして、泳げるようになる気はしない、でも泳ごうとしなければ泳げないままだ、と思いながら、付いて来てしまったんだけど。
「お前が俺に勝てるわけないだろ。50メートル走でも勝てないのに」
「陸と水では別だもん」
「両方負けてんじゃん」
「うるさいな」
二人がプールから上がって来て言い合っている。狡噛さんは、筋肉で沈まない限り、泳げないとは思えない。…というか、これだけ余裕綽々なんだ、泳げないわけがないだろう。やっぱり私は来ない方が良かったかも、皆これだけ泳げるんだ、場の雰囲気を壊してしまう。
「縢くん、私、戻るよ。ごめんなさいさん、無理矢理ついてきてしまって」
「え、どうして?」
さんが目を丸くして私を見て、狡噛さんはちらりと私をうかがう。…言っても言わなくても、きっといつかバレるだろう。
「…私、泳げないんです」
「じゃああっち」
彼女が指をさす方には、水深1メートルという概念のレーンがあった。
「狡噛さんと行ってきたらどうですか。泳げないもの同士。常守さんは気にすること無いと思います」
「おい、どうして俺が泳げないことになってんだ。普通に泳げる」
「強がらなくていいですよ。筋肉で沈むでしょう?」
「なら縢だって沈んでるだろうが」
「コウちゃん俺の事バカにしてる?コウちゃんと比べたら全員はんぺんくらいなもんじゃん?」
「はんぺん?あ、おでん食べたいかも」
「いや、ぺらっぺらっつーかさ。でも、おでん、いいな。今度冷房ばりばりの中であつあつおでんパーティーすっか」
「わあ贅沢!よろしく、秀星!」「っ!」「狡噛さん!」
さんが、狡噛さんをプールへ突き落した。ここは水深3メーターだ。本当に泳げなかったら危険だ、あ、でも、縢くんは落ち着いている。さんはしゃがみこんでプールを覗いて、口を尖らせている。
「っぷは、お前人を突き落とすな!」
「何だ、泳げるんだ。つまんないの――っあ!」
…やっぱり。さも当たり前のように水面に浮かんだ狡噛さんが、…さんを引っ掴んでプールに落とした。「っや!セクハラおやじ!触らないで!」「落としたから悪いと思って支えてやってんだ」「いらない!」「逃げんな」二人は楽しそうに追いかけっこを始めてしまった。
「…いいなあ、楽しそうで。みんな泳げるんですね」
「あっちで練習してみる?朱ちゃんもそのうち泳げるようになるって。まずは水に慣れるとこからだな」
向こうの岸に上がった狡噛さんが、さんも無理矢理陸にすくいあげて、つるっと滑った彼女に巻き添えを食らい、…多分あれはいちゃついている。
*
壁に着いたら、狡噛さんに手を取られ、片腕でぐっと陸に上がった彼にの後ろに続く、というか、無理矢理あげられるような形になって、その手を頼って何とか壁に足を着いて這い上がりつつ、ふわふわしたバランスのまま足をついて、盛大につんのめった。「っぴゃ、――っわぶ」滑るのだ、プールというものは。私は全体的に、中腰だった彼の背中に激突し、二人で床になだれ込んだ。「…痛い」なんでこんな器用なことになっているんだ。この人が振り返りもせずに手を引っ張るせいだ。いくら公安のプールの壁はつるつるで怪我の心配がないからって。むかつく。
「…背中かたすぎません?」
「お前が柔らかいんだよ」
「狡噛さんって本当、結構エロ親父ですよね」
「正常な男性的な反応だ。俺はまだ親父じゃない」
「開き直らないでもらえます?」
「開き直らざるを得ないんだよ、馬鹿」
手をついて上体を上げたら、狡噛さんがごろりと横から抜け出て、手を取られたので、頭が痛そう、と打撃に備えるが、やはりイケおじは私の頭をカバーしていた。何故手を取るんだ、と思ったけど……押し倒されている。何でこうなった。
「…あの」
顔が近い。ちょっとまずそう、真剣な顔をされている。どうしよう。水も滴るいい男になっている。視線の逃げ場がない。彼が前髪をかきあげた。かっこいい、どうしよう。顔が迫って来て、どうし、どうしよう。ぎゅっと目を瞑って横を向いたら、ちゅ、と頬に唇が落とされた。前もこんなことがあった気がする。
「冗談だよ」
「~~っ冗談じゃないです!」
耐え切れない、という風に、真顔だった彼が笑い出し、私を抱えたまま起き上がってげらげら言っている。私は不可抗力で彼の足の上に乗って、腕の中に抱えられ身動き取れず、あまりにもむかつくので彼の分厚すぎる胸板をバシバシ殴っている。
「もう!狡噛さんなんて嫌い!バカバカバカ!」
「子供っぽい。っふ、っく、くく」
「笑わないで――っわぶ」
*
「二人ともー、あっちで水中ビーチバレーしようぜー!」
縢くんが手を振りながら、大きな声で、二人に声をかけてくれた。「了解だー」…水中ビーチバレーって、なんだろう。
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