「っあ!……いたい」
隣でリンゴをすっていたさんが、突如声を上げた。彼女の眉は下がっている。
「だから手伝わなくていいつったじゃん。今日は人手も足りてるし」
「大丈夫ですかさん、あ、血が出てる…」
「早くすすげ」
狡噛さんがさんの手首を掴んで、指を口に含んだ。
「っひ、……狡噛さんすすげっていいましたなんであなたの口は水道なんですか蛇口?!」
「っぶ」
縢くんが吹き出した。笑い転げながらも玉ねぎを炒める手を止めていない縢くんはやはり凄い料理人だ。
「狡噛さん消毒しますから離れてちょっとやめてください舐めないでバカなんですか!」
ちゅ、と恥ずかしい音を鳴らして、狡噛さんがさんの指を吸い離した。ダメだ、この人たちは、ダメだ。
「ん。人の唾には殺菌効果がある。よく考えたら手についてるリンゴが勿体ないと思ってな」
「ふざけたこと言わないでもらえます?私の血だって勿体ないです」
「?勿論それもだ」
首を傾げて言い放った狡噛さんに、さんが悶えている。縢くんと二人で彼らを促して、キッチンから向こうへ行ってもらう。私は狡噛さんが放っていった芋の皮むきに逃避することにする。突如、彼らの恰好が変わった。
「っ、ふ、」
「朱ちゃんも笑っていいよ、俺、無理、こらえきれない。カレーの金、皆、出してくれたから、さっき、買ったの、俺、天才じゃない?」
「う、うん、あれは、ちょっと、」
縢くんが二人にホロを投影したのだ。狡噛さんは男爵アバター、さんはアールーピーマヨネーズアバターだ。男爵衣装は上半身恰好いいけど、ダメだ、なんか、シュールだ。
「でも、なんで、マヨネーズ、なの?」
「ふ、じゃがには、マヨっしょ。今日はポテサラも作るぞ、リンゴもあるし」
「へえ。ポテトサラダにリンゴ入れるとおいしいんだ、初めて聞いた」
「うん。そこにヨーグルト入れると、酸っぱさと甘さが融合してもっとよくなる」
「へえ~」
笑い転げずに済んだ。「あはははは」縢くんがアバターを全指向性に変更したようで、あちらでは二人がお腹を抱えて笑い転げている。料理下手さんたちは遊んでいた方がいい。本気で手伝ってもらわない方がいいということを私は今日学んだ。さんは怪我をするし、狡噛さんが剥いた芋はボコボコで大変残念だ。じゃがいもも怪我をしている。
「っおま、」
「あはははは」
「縢か!?お前普通逆だろ」
「ふふふふ男爵は男の人ですよ、ほら蝶ネクタイが可愛い」
「男がぶっかける側だ」
「はい?――っわぶ」
「コウちゃん?」
「口が滑った忘れてくれ」
「……狡噛さん?」
妙なことを言った狡噛さんがさんを抱き込んだ。
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