「秀星、これ握り潰してみて」
「バカじゃねーの?」
「いける。あそこのゴリラさんは果物握り潰すって聞いたことある」
「みかんならいける」
「違う、じゃがいも」
「野菜、男爵」
あはははは、と笑いあっている縢くんの手にはじゃがいもが、さんはリンゴを丸かじりながら傍観している。じゃがいもを握り潰すなんて人間には不可能じゃないだろうか。いや、或いは、この人なら。
「…狡噛さん、じゃがいも握り潰せますか?」
「……さすがにやったことない」
縢くんが腕に力を込めて、「ふぬぬぬぬ」唸りながら四苦八苦している。
「ほら、男爵じゃないっていうなら、その可能性を自らの手で握り潰して!今日はカレー作って、甘いのでいいから」
「――っはあ、っはあ、ぜえ、無理だろこれ、ふざけたこと言うなよ」
「じゃあ秀星は男爵」
あはははは、と笑った縢くんがさんを殴った。「いたい!!」
「…狡噛さん、私この前も、男爵って言って、お腹抱えてる二人を見たことがあるんです。あれ、何の暗号なんですか?」
「俺もその経験がある。あいつらは俺を些か小ばかにしたような目で見て笑い続けていた。ろくでもない意味なのは確かだ」
さんがこちらへやってきて、狡噛さんにじゃがいもを差し出した。
「握り潰せたらなんかくれるか?」
「男爵、って爵位あげます」
「いらねえよ。代わりに一つ、質問に答えてくれ」
「嫌で―――えええええ………」
メキャ、と音が鳴った。狡噛さんが手を開く。それが半分に割れていた。えええええ……。
「えええええ……」
「…おい。何でみんなして引くんだ。うまいこと指をめりこませれば割れるんだ」
「コウちゃん、ゴリちゃんに改名していい?」
「ふざけんな」「いだいだいだいだいごめんって悪かったよごめん許してゴウちゃん」「かーがーりー。罰として今日のカレー俺にも食わせろ」「私も!」
ちゃっかりしている。皆縢くんのご飯が大好きだ。狡噛さんは、ぐりぐりと縢くんの頭に拳をめり込ませている。私の隣には、微妙な顔をしているさんが寄ってきた。
「…気を付けましょう、私たちの骨なんか簡単に折れますよ、あの人」
「そうですね…」
勿論、狡噛さんはそんなことしないだろうけど、正直言って引いたのは事実だった。男の人の筋肉に、そこまでの可能性があったなんて。
「で、。お前と縢がたまに言ってる、男爵、ってどういう意味だ」
「じゃがいもですよ」
「男色」
「秀星!」
せっかく二人きりの秘密だったのにとあざとい演技で縢くんに詰め寄っていったさんを、狡噛さんが引き剥がす。さんが後退った。
「今のは縢が答えたからノーカンだ。どうして俺が嫌いか言ってみろ」
「男爵!」
「身を以って知りたいのか、そうか」
「ごめんなさい」
「許さない」
こ、これは…!壁ドンだ!
「離して!分かってるでしょ!」
さんが壁に縫い付けられている。彼女のいつもより少し高い声には焦りが見える。か、可愛い。でも宜野座さんが休憩から戻ってきたら私も怒られてしまう。
「オフィスではイチャつき禁止ですよ」
「イチャついてません常守監視官」
「宜野座さんに集団責任で怒られます、私のせいになります」
「狡噛さんに文句を――っわぶ」
するりと脇の下から逃れようとしたさんを、狡噛さんが胸の中にしまった。ダメだ、あれは見ていたら目に毒だ。ホロでも被せておこう。最善は尽くした。私に出来ることはもう無い。
「っやば!朱ちゃんマジセンスある!じゃがいもの壁紙じゃん、なんでそんなの持ってんの?あとで俺にも送っといて、それ欲しい。まじ壁じゃがいもスキンになってんだけど、やっべーウケる。男爵か?」
「…結局、男色、みたいな意味で使ってたってことでいいの?」
「そうそう。ただのお遊びだよ。が、俺が男色じゃないかっていったから、なんでだっけ、男爵だって言い返したんだよ。芋食ってたのかもしんねー」
縢くんはちゃっかりゲーム機を手に取っていた。宜野座さんが出て行かれて、もう少しで1時間になるから注意しているのに、誰にも伝わらない。多分伝わっているけど、誰も気にしてくれない。自由だなあ。
「縢くん、ゲームもダメだよ。もうすぐ宜野座さんが戻ってくるから、しまって」
「ちぇー」
「――戻ったぞ、ってなんだ、芋?」
「っやめ、狡噛さ、宜野座さん助けて!」
「常守貴様何をやってたんだ!さてはあそこにと狡噛が隠れているんだろう!全く監視官として――」
カレー、大盛りにしてもらおう。
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