パンツ下げる五条

「すっぱいぱんどうだった?」

 え?

 俺はを二度見した。後輩である七海に廊下公衆の面前であることも気にせずパイパンどうだった? と言い放ったを二度見した。通りがかっただけの俺、今からな~なみっ。っ。て声かけようと思ってた俺の気持ち。突然のパイパンカミングアウト。

「実にいいものでした」

 …………マジ?

「五条さん。お疲れ様です。ありがとうございました。では私はこれで」

 またね~って向こうに去ってく七海に手、振ってる、パイパンなの。
 なんで七海が知ってんの。
 ……パイパンなの?

「なあ。お前なんでアイツにそんなことカミングアウトしてるわけ」
「え? 何が?」
「しかもどうだったって、見せたりしたってことだよな」

 俺には言わないのに。俺には見せないのに。お前にとって『私はパイパンです♡』って男に言うのはフツウってワケ? しかもコイツの聞き方からして七海の言い草からして挙句の果てに見せたんだろうし。ありえねぇんだけど。見せるか? コイツの性格で。AVでも勧めた? いや。でも。実に良い。混乱してるわ俺。でも一つだけ分かる、ンなこと堂々と廊下で言えんなら俺にも見せられんだろってコトが分かる。

「何、ごじょ、………ッきゃあああ!?」

 バサッと手が勝手にのスカートをめくっていた。その先には当たり前のように布があった。パンツだな。
 瞬間、俺はしゃがみながら、少し腰の肉に食い込んでいるところに指を滑りこませて一息に下げていた。

「ひぎゃああああああ」
「……生えてる」

 のスカートが重力に従って戻っていく。スローモーションのように、薄く毛が生えていた柔らかそうなそこが見えなくなった。しゃがんでいても、が腰を引いてるせいでギリギリ見えない。覗き込めば見えるだろうけど。今はもう、魅惑の内腿のラインに指を添わせたくなるだけだ。
 ……生えてたじゃん。
 ジ~ッとの足のラインを見ながらのソコを思い出していると、の足の隙間からスゲェ形相で走って来る七海が現れた。テメエ。

「どうしたんですかさん!? 五条さんは!?」
「オイ七海ィ。生えてんじゃねーか」
「…………??? 無事そうで良かっ…………!?!?!??」

 七海の視線が俺の顔へ、それから下へ。つまりのパンツへ移ったのが分かった。オイ見んな。誰の許可貰って見てんだよ。即座に立ち上がりを背に隠す。

「早くパンツあげろ。ホイホイ見せてんじゃねーよ」

 ハッと七海が我に返る。顔真っ赤でウケんだけど。茹蛸じゃん。のパンツ記憶から抹消しろ。

「な~なみ。無量空処してあげるよ♡」
「……それも良いかもしれませんね」
「よし来た」

 掌印を結ぼうと右手を上げた。ぐす、っふぇ……が鼻をすすって泣き出す声が後ろから聞こえた。何、と振り向くと、え、大号泣なんだけど。

「エ。何泣いてんの」
「本当に申し訳ない。今しがた記憶から消去済みですが、さんがお望みなら、無量空処も受けます。本当に申し訳ない」

 イヤそんな大事か? ……これガチ泣きじゃね? なんで? 廊下でパイパン宣言する方がよっぽどヤベェだろ。ってパイパンじゃ無かったんだわ。いやマジで何? 何だったの? 何だったんだろ。

「ひっぐ、っぐす、七海は、悪く、ない……っ」

 は両手で溢れる涙を拭いながら嗚咽を漏らして言っている。ついにはしゃがみこんで縮こまり背中を壁に預け、膝の間に顔を埋めてしまった。真っ赤で真っ青でウケんだけど。で、パイパン宣言してた癖になんでパイパンじゃないの?
 おろおろする七海と、何一つ理解できてない俺。ワッケ分かんねえ。

 5分くらいそうしていただろうか。ひとまず何でパイパンじゃねーのにンなこと言ってたのか聞いてみるか、と口を開こうとしたら、見知った呪力、足音が近付いて来た。助かった。

、大丈夫? 凄い悲鳴だったけど何が、…………悟か」
「なんだよ」
「……イヤ本当に何したの? すごい泣き方じゃないか?」
「え、コイツが七海にパイパンっつーから。俺も見たんだけど生えてて意味分かんねーの」
………………

 あんぐりと口を開いた傑、そして七海。
 なんとも言えない顔を張り付けた傑がの肩に手を置いた。
「立てる?」「部屋まで送るよ」「上着貸そうか?」なるほど、ああいう対応が求められてんのか。
 はえぐえぐ言いながらも立ち上がりノロノロ傑に縋り付きながら歩き出した。後で追おう。今は七海に聞きたいことがある。

「なあ。結局なんだったワケ?」
「貴方が最低だということはよく分かりました」
「いや素がパイパンつってたじゃん。七海ィ、何が実に良かったのか説明しろ」
「……パンです。酸っぱい、サワーな、酸っぱい味の黒パンですよ……この間、下さったじゃないですか……」
「…………ならそう言えや」
「私に言わないでください。五条さん、今回ばかりはさんに謝罪された方が良いと思います。では失礼します」

 私はもう駄目かもしれない……フラフラと七海が去っていく。
 酸っぱいパン、どうだった。素、パイパン。か。
 誤解だってことは分かったけど、俺アイツに関して頭がシモすぎねえ? 前もこんなことあったわ。
 絶対謝んねーけど仕方ねーから傑の呪力を辿っていく。の部屋の前を通り過ぎて、俺の部屋の前。傑が仁王立ちで待っていた。

「それで、何か言うことは?」
「アイツが酸っぱい味のパンのことを酸っぱいパンと言ったのを、俺が素がパイパンと勘違いしました。終わり」
「あの子が公衆の面前でそんなこと宣言するハズないだろ。自分の物差しで他人を測るなよ」言いながら、傑が俺を傑の部屋に突っ込んだ。蹴り飛ばされて若干イラつきながら反論する。
「うるせぇな。七海が実に良かったとか言うから何かと思ったんだわこっちは」
「しかも見たって、のあの泣きようだともしかしなくとも下着まで下げただろ。本当にありえないよ悟。そこまでするならなんで最後までやらなかったんだい」
「え。最後」
「最後まで上手にしてあげれば、こじれなかったのに……」
「さいご」
「もしうまくやってたら処女奪えた上に今頃付き合えてたよ。ホント残念だな」

 傑がわざとらしい仕草で両手を横に広げ溜息をつく。うっぜえ。「まあ悟には手を出したって無理だったか」言いたい放題言うじゃねえか。

「今からヤってくる」
「やめろ。悟にはまだ早い」