五条が頭痛い

「ア゛~……」

 扉が開く音がして手を止めた。高専、五条の部屋でコーヒー飲んでくつろぎながら、のんびり部屋を掃除していたところである。
 五条が、ゆら~っと、フラ~っと、靴を脱いで上がって来る。五条悟と書いてゾンビって読むみたいな感じになっている。うわあ、お疲れ。今日の任務特級だったっけ? いや、すし詰め地獄級がやっと今日終わるんだった気がする。
 彼はパーカーの前をじじじ…とスローな動きで開け、片付けたばっかりのそのへんにほっぽって、「どこやったっけ……」グラサンの上から指を入れて眉間を押して近寄って来る。
 あっ、こ、これはやられている!! ウ~と唸っている五条、普通にかわいそう。
 どこだったっけ。まだ見てないところ。確か多分机の引き出し? しゅって開けたらシートがいっぱいあった。溜めすぎじゃない? ちょっとドン引きしながら「はい」と五条に差し出した。

「あ~。ありがと……」

 弱ってる。
 五条は呻きながら鎮痛剤、ガロナールのでっかいやつを受け取ると、ポチポチして口に入れて私がさっきまで飲んでたコーヒーで流し込んだ。

「ねえ突っ込みどころが多すぎるんだけど」

 大丈夫、と言うには見るからに大丈夫じゃない。グラサンを取ってふらふらとベッドに顔面からゆっくり沈み込んだ五条は十中八九ずつうがいたいんだろう。学生時代もこんな風に死んでる日がちらほらあった。だからってカフェインはないよ。
 カーテンを静かに閉めてあげて、部屋の電気を消して靴に足を突っ込む。砂糖と水とスポドリと、蒸しタオルと、他に何かいるものあるかな。カフェインで流し込むなんてイカれてるよ五条。ドアノブを掴んだところで、か細い声で名前を呼ばれた。

「いいから、こっち来て」

 くぅーん。きゅーん。って鳴きそう。めっちゃ弱ってる。大丈夫、五条? 大丈夫じゃないよね。ちょっとカワイイかもしれない。本当にツラそうなのにそんなこと思ってごめん。でもいつも凄い色々されてるからなんていうか、こう。あと私が居てもずつうがいたいのは治らないと思う。
 口の中だって苦いだろうし。ちょっと量が心配だし。どう考えても水で薄めた方がいいと思うんだよね。しかも上限つっきった量をあろうことかカフェインで飲んでるからね、この男。いくら巨人だからっていきなり倍量は多くない? 身長3mないとだめだよ。反省して欲しい。

「ねぇ゛ー……」

 かわいい。
 母性か庇護欲か、はわはわ胸がキュンとなって鷲掴まれてしまった。縋る様な声に、仕方ないからそっと戻ってベッドの端に腰掛けてみる。
 ぐるりと仰向けになって、その見え過ぎる両目を隠すように手のひらで覆っている五条はすっかり弱り切っている。かわいそう。いい子いい子してあげたくなるけど、したらただの追撃なので止めておく。
 ちょっと寝なさ過ぎだったんじゃないの、働き過ぎたんじゃないの。「前開けるよ」「ん」掠れた声で五条が返事をする。返事させちゃってごめん。私は彼のシャツのボタンを何個か開けていく。
 五条、全然自分のことを省みないっていうか、ヘーキヘーキって余裕ぶっかましてヘーキじゃない小学生みたいっていうか、なんていうか。まあ滅多に無いけど。もうちょっと自分のこと考えた方がいいと思う。
 いつもよりちょっと血色悪いな。かわいそう。痛いよね。痛いの代わってあげられなくてごめんね。何か私にできることないかな。お水取って来ること。……やっぱり何回だって思うんだけど、

「カフェインで飲むのは無いでしょ。反転使わないの?」
「神経系の再構築、だるいでしょ~……」
「それはそうだけど……」

 五条でも、十分な休息を取ればどうにかなる類のものに、めんどうなことはしたくないらしい。確かに神経系の反転はよっぽど面倒くさい。簡単な臓器のほうがマシだ。肉体の治癒力から言ってもダンチだし。神経系なんか、怪我してもほっといたら1日に1㎜も伸びないって硝子が言ってた。ずつうがいたい神経系の反転なんて高度も高度なの、私できない。出来ることが少ない。とても無力。

「お水と蒸しタオル、いらない?」
「いいって」

 私が居たってなんにもならなくない?
 手を引っ込めて五条のことを呆れ半分心配半分で見ていると、どこ~と言わんばかりに今度は五条が手を伸ばして来た。探されている。「寝ないの?」「寝たいの」手を掴んでみると、いきなりベッドに引きずり込まれた。
 頭痛い時って全然力でないのに、これが最低の力って……コト? びっくりなんだけど。横っ腹に強めにぶつかっちゃってごめん。さすが五条……。フィジカルつよ……。

~~……」

 ぎゅ~って抱き締めてくる五条、一人になるのがイヤっぽい。
 五条は黙って私の頭に腕を回し、肩で少し荒く息をしている。五条の体に埋まっているだけの私、存在意義なくない?

「寝る」

 え、このまま? と思いはしたが、仕方ないからその宣言に「うん」と頷くしかない。いいよもう、そうしてください。寝たらお水取って来ておいてあげよう。

 やっぱり五条悟も人間なんだなあ、ってこういう時にだけ思える。ちなみに寝てても馬鹿力だったので脱出出来なくて私も寝るしかなかったし、水は取って来てあげられなかった。寝起きのキスは苦かった。