五条とデートする

。悟と灰原とデート行くんだって?」
「……バックレようかなって。二人でいいんじゃない?」

 お風呂上り、共有スペースに来たら傑に捕まった。そもそもデートじゃない。七海のプレゼント買いに行くだけ。そんな関係じゃない。私たちは違う。言いたいことが山ほどある。言ってやろうと逸らしていた目を合わせたら思ったより生暖かい目をしていて五条的なオから始まりエーで終わる顔をしてしまいそうになった。「傑、」ちがうょ……と口を開きかけたところで、ぴろんと私のケータイが鳴った。

『迎えに行くから待ってろよ』
「ヒッ」
「ね。逃げるのは諦めた方がいい」

 で、何着ていくの? って傑が何か言っている。



 五条がきっかりに来るわけはない。しかしもしも来たら怖すぎるので早々に制服に着替えて髪を梳かしてトイレに行って正座で床に待機する。私えらすぎ!すごい!わんわん! 灰原。七海、何が好きなんだろう。プレゼントって具体的にどういうもの? いちごみるく、ペブシ、そば、お酒、いぶりがっこ、うう~ん……。五分経った頃には携帯を手に取っていた。今月も無事パケ死かな? ガチャガチャガチャガチャ五条がドアノブを捻る音で慌てて立ち上がる。ガチャガチャガチャごめんってば!!!

「壊さないで!今出るから!」

 バキッ。あっ。~~っクソ五条!

「は?なんで制服なの」
「壊さないでって言ったじゃん!」
「なんで制服なの」
「壊さないでって言った!直して!」
「俺が先に質問した。なんで制服なの」
「直して!!」
「お前が服直せブス」
「うるさい!!逆になんで私服なの!?」
「任務じゃねーだろーが」
「ぴえ」

 怖い。ズカズカ靴も脱がず歩いて来た五条が私の頬をぐりぐり両手でぐりぐりする。痛い!最近五条のあたりがキツい!最近っていうか、あれから!あのせい!なんで!?

「もういい。まず服買い行く」
「エッ灰原は?」
「いいの見つかったからもういいって。連絡来なかった?」

 五条が語尾にハテナを付ける時は本当にエッ?て時か、すっとぼけている時だ。エッ?なら俺とお前で行く意味ねーじゃん、って言ってこない当たり今回は怪しい。

「……すっとぼけてない?」
「なにが」

 ……そうだよ。五条と私で行く意味なくない!?

「ていうか灰原がいないなら何で行くの!?」
「バレンタイン無かったんだから当たり前だろ。ホワイトデー寄越せよ」
「えっ」
「えって何?こっちがエなんだけど?」

 お前マジで救いようのない馬鹿だわオッエ゛ーと五条がいつも通りのひどい顔をして私の手を引いていく。めっちゃ足が宙に浮いて無限の内側に入れられているのを察して反射的に五条にくっつく中、何をどう考えても分からない。五条理論に決まっている。ほんとうにいつ離されるか不安でなにも考えられませんし考えても分からないからいいです。ケンザンの上歩いてる時とか丁度机の角に足ぶつける時とかに離されたら泣く。五条はこんなんだから人の部屋に土足のままズケズケ入って来るの知ってるけど、知ってるけど、最低限の後先は考えてくれてるって、知ってるけど、知ってる……まじまじと見たことないかも!!

「五条、ね、公園行きたい」
「なんで」
「五条って、アリ、踏まないんじゃないかと思って」
「アリだってウンコだってなんだって踏まないけど?だから?それが?何?」
「実際見たことないなって。分かっても現実に一回くらい見てみたいかも」
「一回と言わず普段校庭で俺の足でも観察してれば」

 早くしろ!と言わんばかりに五条が玄関に降り私をひっぺがして、繋がれていた手が離された。地に足がつき、五条に目線で急かされるまま靴に足を入れる。……結局どこ行くんだろ。



 傑と硝子はデートじゃんって言い張るけど私と五条が並んでもデートにはならないから心配しないで欲しい。私服を着こなしている五条は制服の私を私でも知ってるような金額なんか知りたくもない服屋さんに連れて行き、どうにかしてって頭を抱えて店員さんに私をお任せした。なるほどこれが七海の言っていたお任せコースかもしれない。こ…これが…私……!?な全身セットされて五条の前に連れていかれ心が死ぬ。化粧が息苦しいから既に落としたい。

「いいじゃん。ありがと。じゃ」

 どうせ笑われると思ってツーンってしてたのに笑われなかった!あまりにひどすぎて言葉を失くしたのかもしれない!

 ということで店を出た私は装備された可愛くて動きやすい服とシンプルだけど可愛らしいスニーカーで五条の隣を歩いている。おさんぽルックだし、もしかして本当に公園へ行くんだろうか? 謎は尽きないがとりあえず五条の隣を歩いてみる。すれ違う人の視線が痛い。五条曰くブスが着飾って本当にすまないと思いながら五条の少し後ろに隠れようとすると、五条が足を止めて並んでくるのでしょうがない。五条も傑も、それとなく車道側をキープするの、普通にいいヤツすぎて一周まわって腹が立ってくる。大丈夫だよ、車道側歩いたって私だって死なないのに。この装備一式のお金払ったら死ぬけど。……死ぬ。

「……五条、あの。お金はらえない」
「払いたいなら払ってもらうけど」

 とんでもなく釣れない返事だ。滅茶苦茶恐ろしいけど、やるって投げやりな小さい声が頭上から聞こえるので深く突っ込まないでおこうと思う。やはり、このまま公園へ行って欲しい。これ以上お金をかけさせるわけにはいかない。公園という単語の反応は良くなかったため、もう少し遠回りに行こうとは思う。どこ行くの?から誘導しよう。どこ行くの?公園=勝利。どこ行くの?どこがいいわけ?公園=勝利。

「それで五条、どこ行くの?」
「どこがいいわけ」
「公園!」
「……」

 五条が歩くのを止めてガードレールに寄りかかった。ガードレールにもたれる部位が普段の私と違う。五条脚長すぎ案件理解不能意味不明。そんな五条の前に出て彼の手を引っ張る。はりうっどせれぶヨロシクなグラサンに長い脚にきらきらしてる髪が冗談じゃないから。人の目が怖いから。さっきからついてきてると思うあのお姉さんとか絶対なんかの勧誘だから。営業マンみたいなかんじのも見えるから。絶えず移動するSにならないとだめなの。お願い動いて。五条が妙なこと言い出す前に公園に連れていかなければ。

「公園いこ」
「別にいいけど。他になんかねーのかよ」

 他??? えー。えー。どこ行こう。服屋さんは硝子と行きたいし傑を蕎麦屋さんに連れていきたいし五条、五条?えーと、えーと、あっ。

「お菓子屋さんにでも行く?」
「……まあいいけど」

 何その間。ひとつ思いついただけでも褒めてよ!五条と二人で行きたいところが特に無くてそれ以外に思い浮かばない。ひとつ思い浮かんだだけでも私は凄い。だって何より何故連れ出されているのか分からないので分かるわけない。
 やっと腰を上げてくれた五条に手を引かれ、既視感デジャヴにウッとなった。なんでデジャヴを感じるの。いつも五条に無理矢理手を引かれているんだろうか。可哀そうな私。

 やめよう。折角出て来たんだから、今日なにをするかポジティブに考えよう。健全な精神で楽しい一日を送ろうと努力しよう。

 まずはお菓子屋さんでみんなへのお土産を調達する。七海は結構ですとか言って絶対食べなそうだけどとりあえず何かを買っていく。次にお土産屋さんに行っていぶりがっこと地酒と蕎麦を買う。七海は一体何が好きなのか。雑貨屋さん、ご飯屋さん。灰原は何でも似合うけど七海が全然しっくりこない。

「灰原と七海って何が好きなんだろう?」
「またあの二人の話なわけ」
「五条と傑はペブシでいいじゃん。硝子にはお酒買いたいから五条あとで店員脅して」
「……」

 さっきから五条にオッエーな顔で白目をむかれる率が高い。手が出てこないだけマシ。そうだそういえば街に出てから痛い思いしてない!?つらい思いしてない!!五条優しい!?やった嬉しいありがとう!! とりあえず決まった!

「五条、私、お菓子屋さんいっておやつとお土産調達してお土産屋さんで色々お土産買ってそれから公園行ってアリを踏まない五条見てスイーツ食べて帰る!」
「もっと!なんか!ねえのかよ!!」
「じゃあ帰って五条と傑がパイオハザードやってるの見たい!」
「それの映画やってるよ!?行く!?」
「怖いからやだ」
「普段呪霊祓ってるやつが言ってんじゃねえ!!」
「やだ!ホントにやだ!!!やだーーーーーっ!!!」



「やだって言ったのに」

 お詫び!って半泣きで五条を引っ張ってったバーゲンダッツカフェ。こんなところにあったなんて知らなかった。ぐすぐす言いながらつつくパッフェは既に二個目である。キャラメルポップコーンはおいしかったけどスクリーンに脅されてひえってなってる私に、横から本気で吃驚しかけてくる五条はちょっとひどかった。寒気耳鳴り物音気配、五条と反対隣の空席から肩を叩かれる感触、ホントに心霊現象ある……?って呪力も呪霊も感じられなくてうそでしょ…ってなったら全部五条の悪戯だった。意地悪そうにニヤリと笑って心底楽しそうにしていたの許さない。本気の悪戯をするな。始まる前のキャラメルポップコーンはおいしかったし始まってしばらく五条がぽけーって口あけてスクリーン眺めながらぽいぽいポップコーン口に入れてたのは絵になってたけど映画怖かったし五条は怖かった。五条のグラサンと白髪が映像の色彩に呑まれそうになるの見ているうちは良かったけど映画怖かったし五条が怖かった! 五条が「あ」って口元に持ってきた五条のアイスを「あ」って食べる。こんなので許すと思わないで!

「おいしい」
「良かったな」
「五条のバカ」
「いい加減機嫌治せば。ガキかよ」
「ガキだもん」

 五条がって口を開けるから、私の手元のパフェを一口あげる。まあまあいけんじゃんって言ってるこのクソ御曹司は一体全体どうして私に貴重なはずの休日を使っているのか。やはり話はそこからだ。

「もうやだ。帰ってごろごろする」
「寝具でも見に行くか。共有スペースに人をダメにするクッションでも置こうぜ」
「行かない。帰る」
「ホワイトデーのお返し買うんじゃねーの。まだ見に行ってねーだろ」
「いい。今度一人で行く。帰る」

 五条の機嫌が見るからに下降していく。正直滅茶苦茶怖いけどこの3パフェくらいの会計なら持てるもん。一人で勝手に怒っているがいい!あと1パフェくらい頼んでスマートに会計して帰ってやる!!
 私は食べ進みながらメニューを立てて開いて五条をシャットアウトする。どうせ指ひっかけられてべしゃってやられるに決まってるけど今ちょっと五条と面会謝絶したい。ああおいしい。おいしいパフェ。おいしいアイス。またデジャヴ感じる。おかしい。ぱっふぇはおいしい。ふん。

「……俺といるのつまんない?」

 しかしメニューは立てられたまま、落ちて来たのは小さな声だった。えっ……。どなた様ですか? そ、そんなの気にするなんて、え、えっ……。

「……五条、熱でもある?大丈夫?」
「……」

 今日五回目くらいのオッエーフェイス。っていうか、さっきの言い草って、五条は私といるの、楽しい、って……コト?

「……五条は私といるの楽しい、の、って、そうに、決まってた」

 そうだ、五条は私をいじめるのが大大大好きだった。

「……決まってんの?」
「うん。今日も朝からブスって言われたし、映画では私のこと脅かしてくるし、私の事イジメるのが趣味だったの忘れてた。いいよ五条、極めつけにもう1パフェくらい食べなよ。お財布せつないけど5パフェくらいなら払えるから真面目に大丈夫だよ」
「お前にタカるほど落ちぶれてねーよ?んなに殴られたいの?」
「ごめんなさい」



「っていう感じで、パフェ食べてお土産屋さん回って来た」

 公園には行ってもらえなかった。お土産屋さんで、あ、ソーメンある。傑に買って帰ろ。は?なんでソーメン?あいつソーメン好きだよ。……そうなの?私は一応そばも買っとく…。
 ということがあったので、個人的に真実が非常に気になっている。高専に帰ってきて、五条が呼んできた傑に淡々と今日あったことを報告しながら、綺麗に戦利品を並べ終わった。どーん! しかし深いため息をつかれた。軽くお土産屋さんみたいになっているからってそんなに呆れないで欲しい。

「沢山買って来たね。重くなかったの?」
「五条がお土産の成る木みたいになってた」

 いぶりがっこ、蕎麦、ソーメン、ラーメン、うどん、パスタ、パスタ、パスタ、五穀米、コスヒカリ、飽きた小町、夢ピリピリ、ライ麦パン、焼きそばパン、酒酒酒。くらえ!持ってけドロボー!

「好きなの持ってってね。いつもありがとう傑」
「ふふ。ありがとう」

 傑が最初に何かを選ぶ緊張の一瞬。その手には――選ばれたのは、蕎麦でした。

「っほら五条!なにがソーメンなの!?」
「おかしいだろ。傑お前蕎麦好きだったっけ?」
「なに、私はソーメンが好きってことになってたの?」
「そうだよ。俺の記憶ん中ではお前はソーメン食ってんだよ」
「存在しない記憶だろ」
「してる!お前がおかしい!誰だお前!」
「スーパー夏油デヒルって聞いたことあるかい?今度お土産に買って来てくれないか、ヘ五ロ」
「なんて?」
「あっ聞いたことあるかも、きょうがくマンチョコ?」
「知ってるの?マニアックだなぁ…」

 傑が言う…? 確か同姓同名のキャラが出てるチョコだった気がする。
 静かになった五条が気になってちらりと見ると、パンとパンとパンを袋に入れ直してマジックで名前を書いているみたいだ。……嘘でしょ、五条パン好きだったっけ?え? きゅきゅっとマジックが走る音が聞こえ、よし。って五条が言った。寄って行ってみてみると、……『七海・灰原』って書いてある。……?

「傑。パイオハザードの続きやろうぜ。こいつが見たいって」

 私はいいけど……と傑がちらりと私を見て来た。うん。疲れてるし今日はもういいです。

「映画も見たし摂取過多だよ、今日はもういい。夢に出ちゃう。別にそんなに好きなわけじゃないし」
「…そうなの?」
「うん」

 傑は蕎麦、七海はパン、灰原はなんでも良くて、硝子は酒。は別にパイオが好きなわけじゃない。……知らねー。ぶつぶつ呟いてる五条、……? 七海って。

「ねえ五条。七海ってパンが好きなの?」
「ん、そーらしーよ傑に聞い、……ンン゛ッ。そうなんじゃん?」

 なぜ今咳ばらいをした?なにを誤魔化した? 傑の顔を見ると何も知りませんという最高に胡散臭い狐顔の笑顔になっている。だめだこれ何も言ってくれないやつだ。

「傑。灰原、ちゃんと七海にパンあげれたのかだけ教えて」
「それは大丈夫」
「良かった。でもじゃあなんで私は今日五条とでかけなきゃならなかったの」
「私に蕎麦を買ってくるためじゃないか」
「……」

 今日の最後のオッエー顔は頂いた。もうそれでいいよ。
 女の子なんだからそんな顔するもんじゃないよって怒られたし五条に頭を叩かれた。