SAITAMA in OMIYA
4
今日は週末、の筈だった。朝っぱらから車に詰め込まれると、隣にが乗っていた。
「じゃ、二人で行っといで」
ここのところ虎杖と釘崎に付き合ってんだという誤解を受け心身共に削られているというのに、何故そう誤解されるようなことを進んでさせられるんだ。五条先生だからか。五条先生だからだな。
「何の嫌がらせなんですか」
「え、任務二件あるし。二人とも埼玉出身で話も弾むんじゃない? と思って」
「俺一人でいいでしょ」
「いやだから嫌がらせも兼ねてるよ?」
なんで。
ふざけてんですかと先生を睨みつけると、先生はハァ? という顔で首を傾げた。
「決まってんでしょ。恵オマエ僕にお土産買ってくんの忘れたじゃん。僕最中楽しみにしてたのに」
「は?」
「あ、もしかしてがお土産だった?」
窓越しにあっけらかんという五条先生に俺は白目を剥きそうになった。「そっか~がお土産だったか~。恵もダメな大人に近付いて来たねえ」「そんなわけないでしょ」「うんうん」どう考えても俺だけで良くないですか。なんでを連れて行かなくちゃならない。
「ていうか土産ってアンタ、……理由それだけですか? 俺一人で良いでしょ」
「は?? それだけ?? もしそれだけでも立派な理由なんだけど??」
「せ、先生あの、私足手まといなので辞退させてください」
「ダ~メ~。呪霊呪力で吹っ飛ばすぐらいしてきなさ~い」
呪霊吹っ飛ばすまで帰ってきちゃダメだよじゃあね~!恵ヨロシク~! と五条先生が手を振ると、補助監督が窓を閉めた。隣に座っているが後ろを振り返り、ああ……という顔で、見送っているんだろう先生に釣られたのか、小さく手を振り返している。
俺は諦めて背もたれに首を預けて目を瞑った。寝よ。
「……伏黒くん。私、車で待ってるね。ごめんなさい」
緊張気味に落とされた声に、ため息を逃がしてから目を開ける。申し訳なさそうな顔でが俺を見ていた。……残念だけど。
「ムリ。五条先生にはバレる。あの人呪力滅茶苦茶視えんだよ。呪力で呪霊吹っ飛ばす覚悟しとけ」
「え、え~~~……」
*
大宮、到着。人でごったがえしているが、まずは駅中の一件からだ。
駅というか、施設というか。西口のロータリーに車を止めて、補助監督が帳を下ろしてくれる。車から出て伸びをして、そこに足を踏み入った。
「ま、待って伏黒くん」
「早くしろ。置いてくぞ」
後ろからが小走りでついてくる。
若い女が好きそうな服屋を超えて、目当ての総菜売り場の方へ。駅の中や上の階からも呪いの気配は感じるが、まだ形を得ていないような、四級にも満たない小さなものだ。
今回の祓除対象は一階、デパ地下部分に巣食っているらしい。足を一歩一歩向かわせる度呪いの気配が色濃くなってきて、マジで四級案件じゃん……と、久々の低級呪霊任務に、ヨロシクってそういう意味……俺が引率かよ……という感想になった。先生が先生を放棄している。
――そういえば、今日は呪いの気配を明確に感じることができるな。何故だ?
「わあ、色々売ってる……」
「呪霊吹っ飛ばす準備万端ってことでいい?」
「えっや、むりです、あっ!」
「サァ~~イタマノォ~~ミヤアゲトイエバァ~~クラズクリナンダヨォオオオ!!」
明らかに見た目が最中。
……確かに、土産の呪い。間違ってはない、が。
「……お出ましだぞ。ほら、吹っ飛ばしてこい」
「む、むり、むりむりむり!」
俺の背に隠れているを掴んで前に引っ張り出す。香ばし気な薄茶色の四角い形をしている呪いは、俺達に襲い掛かろうと白い何かを吐き出してきた。「ひ」固まっているので仕方がなくごと横に避けてやる。
「釘崎に大見得切ってたろ。ちょっと頑張れば多分倒せる」
「がん、がんば、どうやって頑張れば!?」
「ハッとやるやつを全力で当てる」
「ええ……???」
なんかクソみてえなアドバイスしてんな。……いや五条先生、戦い方ちゃんと教えてから実践に出せよ。もしかしなくともコイツ何も知らねーんじゃ……。
の手を引いて服屋の方まで一旦引いて、しゃがんで隠れながら様子を窺う。俺達を見失ったらしい呪霊は、そこら中に白い何かを吐いて遊んでいる風に見える。あれは一体何だろう。動いているようにも見えないし、異臭も特に無い。少しこのままでも大丈夫だろうか。
、と名前を呼んで、彼女に倒し方の説明をしてやろうと口を開く。
「お前、自分の術式知ってるか」
「ジュツシキ?」
「例えば俺のはこういう感じ」
掌印を結び玉犬を呼び出す。がぽんと手を打った。
「手をぱってやって何かが召喚できたら術式」
「違う」
ダメだコイツ。――いやダメなのはじゃない。何も教えないままほっぽり出した五条先生だ。
「いいか、俺が囮になるから、どうにか当てろ。一発でいい。あの呪いは弱いからお前でも祓えると思う。お前が当てるまで俺が逃げ続ける羽目になるからどうにかしてくれると助かる」
「えっ」
俺は玉犬にのサポートを命じて、囮になるためふらりと呪霊の前へ出た。まっ、ちょっ行かないでっての縋り付くような声が聞こえるが無視だ無視。
呪霊に追いかけられながら白い何かを観察してみるが、表面はザラザラしていて、少しテカっている。一体なんなんだこれは。どのような攻撃を仕掛けて来ているのだろう。
総菜売り場の四角いコーナーをなんべんも回っているうちに、白い何かは段々とフロアを埋め尽くし始め、足の踏み場が無くなっていく。機会を窺っているようなのは分かるが、そろそろ祓ってくれないだろうか。
「あっ」
どこかでが声を出し、呪霊がそちらを向いた。見ると、玉犬が突っ込んだのか、白い何かに全身を取られ藻掻いている。くっついているのか? は傍で手をあたふたさせながら困っている。
呪霊は俺からへ、ターゲットを変更し向かっていく。俺も先回りしようと走った。多分俺のが早く着く。
こんなドンクサ呪い、アイツの一発でも祓える。やれ。どうにかしろ。
呪霊がの前に立ち塞がり、白い何かを吐きだす予備動作をしたのを見た。
「! やれ!」
もしもの時のために俺も呪力の籠ったパンチの準備をしながら、呪霊に睨まれているに怒鳴る。ハッとしたが「えい!!」と呪力の籠ったパンチというか、呪力そのものをぶん投げた衝撃波のようなものを出すのと、呪霊が口から白いものを吐いたのは同時だっただろう。べしゃ、との顔面にそれがくっついて、傍から消滅していく。
へたりとが尻もちをつき、玉犬が体をプルプルさせながら立ち上がった。
「ぅえ、え……」
「出来んじゃん。お疲れ」
「でき、た……?」
玉犬は無事そうだ。彼女も大丈夫だろう。
怖かった、って言うに手を差し出すと、ありがとう、と手を重ねられたから引っ張り上げてやろうと力を籠めた。しかしが立ち上がって来る素振りはない。
「さすが、くらずくりの呪霊だけあって、攻撃がお餅だったね……」
……あの白いヤツ餅だったのか? くらずくりって餅入ってんの?
「……オマエ食らってたけど。異常ないか」
「うん。大丈夫だと思う」
反対の手でぺたぺた自身の顔を触っているが、見た感じも平気そうだし。玉犬も問題なさそうだから今回は大丈夫だろう。けど。
「任務はもう一件ある。早く行きたいんだけど」
「えっと……もうちょっと待って、欲しいなあ」
「早く行きたいんだけど」
「立てないです」
「あ?」
曰く、逃げるのは慣れてるが立ち向かったのは初めてだったので、緊張と安堵でやられたらしい。よし。次の任務は待機でいいな。……イヤ、コイツ一人だとまずいんだった。
*
百貨店に帳を下ろしてもらい、またを背負いながら次なる呪霊の元へ向かう。さっきのよりは強いらしく、呪霊は3級相当とみられるらしい。に祓うのは厳しいだろう。さっきの祓わせといてマジで良かった。
デパ地下へ降りて、背後から襲われる心配のない場所に、を下ろし玉犬をつける。とは言ってもは完全なる戦力外なので、そう距離は取れない。だからまあ悪いけど有効活用させてもらう。
ぺたんと床に腰をつけて彼女が縮こまっているのを見ながら、俺は向かいのショーケースの角に身を潜めた。ただ、問題が一つ。
さっきは問題無かったのに、今は点で分からない――また呪いの気配を感じ取れていない。なんで。俺の呪力バグってんのか? やりにくい。やはり近くにいるの呪力量が高いせいなんだろうか。集中してみても、モヤがかかっているようにあやふやだ。
「ウマアアアアアアアイウマスギルウウウウウウウウウ!!!!!」
考え込んでいると突然呪霊の金切り声が発せられ頭上からカネが振って来た。金。やば。ショーケースを盾にして防ぐ。は大丈夫だろう、多分玉犬がなんとかしてるハズだ。ショーケースが透明で随分と見やすいが、どっからどう見てもあの呪霊、昔のタイプの金を飛ばしている。まさに百万石ですって感じの。冥さんって人が滅茶苦茶喜びそう。祓ったら消えんだろうけど。
呪霊は金を振りまいて物理の打撃を与える攻撃をし終えると、それから迷わずに向かって急降下していく。呪霊の等級は2級になりかけの3級、という程度か。ここで一つの仮説が確信に変わる。
おそらく、強い呪いこそ。
「っひえええい!!」
俺が立ち上がると、が真正面から呪力を当てていた。呪霊がバランスを崩し地上に激突する。直ぐさま背中に呪力籠ったパンチを繰り出し祓った。
「ナイス。やればできんじゃん」
「ふ、ふ、伏黒くん……」
玉犬二匹を抱き締めて、が半泣きで俺を見上げている。怖かったよ。なんでこんなことするの。頑張ったよ。そんな顔をしている。うるうるした目で見つめられると反射的に頭を撫でそうになってしまうので止めて欲しい。
「あと五条先生に土産買ってったら今日の任務は終わりだ」
とはいえをおぶったままデパ地下で土産を調達する勇気は俺にはない。する必要もない。
玉犬を撫でてから、顔を見ないようにして彼女を背負って立ち上がる。補助監督に買い出しを頼もう。
*
快く引き受けてくれた補助監督は、ついでに買って来たという彩の国の宝石を。は食べたことないっていう百万石饅頭。俺はくらずくり最中を食べたことが無かったので、各々頂くことにした。
補助監督に中身を小分けにしてもらった袋を、運転席から手渡してもらう。冷やすとコレもっと美味しそう~と悶えている補助監督が車を発進させる中、に饅頭を渡し、俺もペリッと最中の包装を開け一口齧った。
甘い。
二口目を齧ると、……やっぱり中に餅が入っている。知らなかった。先入観を持って任務に当たるのが危険とはいえ、もう少し調べて行けば良かったか。でもこれつぶあんだから五条先生気に召すか微妙だな。まあ百万石よりは好きか。
は、と横目で見ると、案の定。中のフィルムに困惑し、どう食べるべきなのか悩んでいるようだった。まあ初見だと困るよな。
俺は最中を口に放り込み、手元の袋をゴミ袋にしようとゴミを入れて、にも促してやる。「あ、ありがとう」がフィルムをくるんと剥がして袋に捨て、それから饅頭を一口齧った。
餅最中を咀嚼し終え喉を通したが、なんつーか、口の中の水分が完全に吸われてしまった。食べるの難儀だな。最中が崩れて周りも汚しそうだし。津美紀がいたら掃除機かけるか皿の上で食べるかしろって小言を言われそうだ。
「ん。なんか、山芋の味がする」
「不思議な味だろ」
「うん。でもおいしい」
小さい口でもそもそ食べているのをなんとなく眺めていると、気付いたが首を傾げて俺をうかがってきた。……やっぱ、なんか犬だよな。そんな風に思って何も言わずにいると、は残りを一口に放り込んでしまった。
悪い。別に早く食べろと急かしてたわけじゃなかった。窓枠に肘をついて外を見る。動物は動いているものに注意を取られる習性があるから、見ていた。そういうところだったんだけど。なんか犬みたいで見てて飽きないんだよな。
「ごめんね、伏黒くん」
しばらくして、彼女が小さい声で呟くから、ヘコんでそうな声にめんどくさと思いながらも、何が、と振り返ってやる。別に、オマエ今日頑張っただろ。
「ごめん。なんか、色々。いっつも背負ってもらってばかりだし」
しかし彼女は申し訳なさそうな顔で俺と目を合わせまた謝ったから、俺は眉間に皺が寄った。
「別に。そういうこともあるだろ」
「ありすぎかな……」
が遠い目で自嘲するように言う。そんなに気にしなくていい。一回背負っちまったから、もう何回背負っても俺的には同じだし。まあ。
「自覚あんなら次からは腰抜けないようにしてくれ」
「うん。ごめんね」
そんな風に眉を下げるよりは、笑って礼を言って欲しい。そんな顔を見たくて助けたわけじゃない。……そんな顔を見たくて?
4 頂上決戦! ~百万石饅頭とくらずくり最中~