SAITAMA in TOKYO
3
「今日はみんなに転校生を紹介するよ!」
始まった。このノリ。虎杖だけが目を輝かせて五条先生を喜ばせてる。いつも通りあれは素だ。
「歩く呪霊ホイホイ、ちゃんでゅえ~~~~っす!」
「ど、どうも。よろしくお願いします」
「へ~! ヨロシク!」
頭を下げるに虎杖がパチパチ拍手する。
「ちょっと! 野薔薇もなんかないの!」
「女子じゃん。垂れ耳が見える系の女子だな」
「好意的なのかどうなのか分かんないな~!! ま、いいや。自己紹介初めて~。まずは悠仁から~」
「俺、虎杖悠仁。ヨロシク!」
「よ、よろしくお願いします」
「敬語いらんし、呼びも虎杖でも悠仁でも好きに呼んで。何て呼んだらい?」
「え、」
二人のやりとりを眺めていたら、ばちっと彼女と目が合った。正しくは彼女が俺に目を合わせてきた。いや助けないし。じっと見んなバレんだろ。詮索メンドイから初対面装ってくんねーかな。意外と虎杖そういうとこ鋭いぞ。
「……伏黒と知り合いなん?」ほらな。
「え、え~? 知り合い……っじゃないです~」
睨むと彼女は慌てて俺から視線を逸らして言い直した。五条先生肩震えてんの見えてんだけど。絶対笑ってんだろ。虎杖が俺とと五条先生を順番に見て「いや」と首を振る。
「この感じ絶対知り合いじゃない??」
「恵ぃ、教えてあげなよ~。ほらほら。僕が連れてきたんですぅって」
「その言い方は語弊があるでしょ。任務で助けただけです」
虎杖は、怪我とかないん?大丈夫なん? と身を乗り出してを心配している。お前ホント普通にイイ奴だな。
釘崎は……、足と腕を組み不愉快だと圧を出している。なんでだ?
謎すぎる。女の機嫌は山の天気のようだ。さっきまで機嫌悪くはなかったよなお前。
「任務で助けただけ、ね。で?」
いやだから釘崎なんで睨んでくんだよ。「で?」五条先生も乗っかってんじゃねーよメンドクセェ。
「……で。五条先生が高専に引き抜いた」
「もっと詳しく!」
虎杖が目を輝かせて元気良く便乗する。面倒くせえ。
「任務で巻き込んだを高専に連れて来て家入さんに治療を施してもらったところ呪力が高かったので見込んだ五条先生が本人に了解を取り引き抜いた。それだけだけど」
「いやもっと色々あんだろ。何、ガラスの靴でも履いてんのか???」
「野薔薇どしたの???」
五条先生がはにゃ?と首を傾げると、釘崎が組んでいた足をほどき机にバンッと手を置いて立ち上がった。がぽかんと口を開け目を瞬いて釘崎を見ている。
「自力で這い上がって来た私には腹立つ以外の感想ねーんだよ。良かったなあ男がホイホイ捕まってここまで連れて来てくれて。シンデレラか?」
怖えんだけど。釘崎の沸点は時々ガチで謎だ。
「え~~キャットファイト~~!? 怖いね~!!」
わかる。
虎杖と俺はシンパシーを感じた。
釘崎ってたまにキレるよな。
その時々で感情100%なのは俺からすると普通に尊敬するとこもあるが、こうなるともう傍観に徹するしかない。こういう時は大抵、黙って殴られる方が早く収まる。
の方へ足をすすめた釘崎が、睫毛が当たりそうと比喩しても過言ではない距離で真っ直ぐ彼女の前に立った。一体何始めるつもりなんだ。は申し訳なさそうな顔をしている。確かに巡りあわせは幸運だったのかもしれないが、俺はお前は何も悪くないと思うぞ。
「さっきからなんか言えよ。呪霊ホイホイって呪力相当強いんだろ。アンタ、自分のこと守れるくらい強くなろうとか思わないわけ」
ぽかんとしていたの口元が、みるみるうちに弧を描いてく。
「私、って言います。そうなるために来ました。確かに幸運だったかもしれないけど、ちゃんと自分で決めました。よろしく、えっと」
「釘崎野薔薇」
「釘崎さん」
「別に、タメなんだし野薔薇でいいわよ」
「え、っと」
「野薔薇」
「えっ」
「の・ば・ら」
「の、……え、えっ」
なあなあと虎杖につつかれ顔を上げると「エハラ焼肉のタレって結構うまいよな」。お前今のでそれ思い出したのか?
「誰がエハラだ殺すぞ」
「スイマセン」
虎杖に一瞥くれた釘崎は、即座にされた謝罪に溜飲を下げたのか怒りが収まったのか、ガチで戸惑ってるにまた向き直る。「野薔薇って呼びなさいよ」「え、えっ……」「え、しか言えねーのか?」仲良くなる要素あったか? 意味分かんねえ。
釘崎が名前攻撃をする度に、無いに等しかった物理の距離をさらに縮めているらしく、は少しずつ後ろへ下がっている。五条先生の教卓を避けて、ついに黒板に背中と頭をぴったりつける。「あ、俺あれ知ってる。壁ドンを黒板にだから……黒板ドンとか言うんかな」「知るかよ」「さっそく仲良くなったみたいで嬉しいね~青春だね~!」いやアンタは早く授業始めろよ。
「の・ば・ら。言えんだろ」
「え、や、でも、そんなに、親しくないような……?」
「これから仲良くなんのよコミュ障か? アンタ学校で友達いなかった系?」
直球いったな。うぐ、と彼女が言葉に詰まったのを俺は見た。呪いが見える人間なんかみんな大体そうだ。周りを巻き込まないために人と距離を取る。人付き合いってもんをしなくなっていく。もそういうタイプだったんだろう。
それはさておき、俺も学友を下の名前で呼ぶようなタイプじゃないので今の彼女の戸惑いはよく分かる。逆になんで釘崎はそこまでこだわってんだアレ。マジでどこに仲良くなる要素あったんだよ。
「いい? これから仲良くなんのよ。そのための一歩なわけ。直接言ったら多少スッキリしたわ。アンタポジティブだし。なかなかいい根性してんじゃん」
やはり女性の気分は山のようだ。変わりすぎだろ。釘崎の口角は見るからに上がっている。内心結構楽しくなってきたとか思ってんじゃねえかと推測する。獲物を追い詰める玉犬もああいう気分になるんだろうか。
虎杖と五条先生と様子をうかがっていると、とバチッと目が合った。彼女がさっと屈んでするりと釘崎の脇を抜け一目散に寄って来る。
「ふ、伏黒くん。助けて。釘崎さんが怖い」
「別に名前くらい呼べば。なんでもかんでも俺に助け求めんな」
「えー伏黒冷てー」
><な顔をしている虎杖に同調するようにが何度も頷く。心なしか頬が赤い。よっぽど恥ずかしいようだ。
「名前、呼ぶのなんて、簡単じゃないよ」
「私から逃げる方が簡単じゃないわよ」
「それはそう」
釘崎の言葉に虎杖が点目で同意する。俺もそう思うので頷いておくと、は口をわなわなさせてから大きく息を吸った。
「……恵くんの、意地悪!!!」
「やっぱデキてん?」
「わけねーだろ」
3 入学おめでとう! ~埼玉じゃ……ナイ!?~