「エド」
「ん、どうした」
「ちょっと散歩、しない?」
私は彼と星を見に行ったことがある。私のそれは日課だったから、彼を誘うのにそんなに勇気はいらなかった。彼の表情が浮かないものだったことが理由の一つだっただろう。
エドに、幼馴染の可愛い女の子がいるということは知っていた。そんな彼が夜に私の誘いに乗って、人ひとり居ないような場所に来るなんて、なにも思われていないようで、もはや笑えたものだ。澄んだ空に星が散りばめられている、この場所からは広い空が良く見えた。
こんなに広いんだから、世界のどこかにエドとアルの身体がもとに戻れる方法だってあることだろう。私と彼が結ばれる未来もあるかもしれないじゃないか。
「へえ。星が良く見えるな」
私たちだって年も近い男女なのに、このポンコツはチビと言われるだけはある。誰より柔軟な頭脳を使ってもう少し恋愛という情欲について考えよ。感じていないのだから思考にも浮かばない。それが答えだ。知っていた。
「星の数は実質的に数えることは不可能なのに、どうして人間の感情は数えられるように言われているんだろうね」
「人間の感情だって数えらえたもんじゃないさ、だけど大別しといたほうが楽だろ。さてはお前、天文学を知らないな」
ニヤリとしたエドワードの顔以外、既にすっかり記憶から抜け落ちてしまった。
エドはそのあたりに落ちていた木の棒を手に、月明かりの下、ガリガリと星座をかいていく。錬金術でもするのか、って陣が組み立っていくみたいだった。
その背中に背負っているものを、誰にも分け与えてくれない。心の底で寄りかかっているのは、ただ一人の彼女にだけだろう。
「私はエドほど詳しくないよ、何事も」
「っへ、そんなことねーよ。お前は俺より俺のことに詳しい」
「ウィンリィのがよっぽどね」
放っておけば朝が来るまで説明をしてくれていただろうエドの言葉が途切れる。
あの時教えてくれた星は、今より先に輝いているのか、私が追いつくときには死んでしまっているのか、どうだったか。
その日だけは、彼は私の隣にいた。掴むことのできない星。ひときわ、一等星。一番に輝く星がエドだった。
「……あいつにゃ見えねえ事もあんだよ。どうしようか考え続けてるさ」
「そうだね。彼女を前線に置きたくないもんね」
カンのいいエドのことだ、あんな風に言えば分かってしまうに決まってた。私は変わらない顔で続けた筈だ。
「深刻にならないでよ。私も君の体が元に戻って欲しいよ」
「悪い」
「いいよ」
それは心からの願いだった。けれど私がそのあと流れ星に願ったことは違ってた。叶っていないのだから、言葉通り、君の事を願ったのだと言ってもいいだろうか。それとも、自分で叶えなかったのだと、命を投げ打てなかったことを悔やむべきだろうか。惜しむべきだろうか。この命は、君のためにあったと言いたかったのに。
この世の真理の上、叶うことも無い夢だ。一つの命と一つの命を、特定的に、限定をして取り換えることなど。できもしないことだ。
いつか君のために死んであげるから。夢を見た流れ星さえ、私の願いは叶えてくれないまま、私は扉を開けることもできなかった。エドワードとアルフォンスは体を取り戻して、過ぎたことを願ったものも、願った通りの結末を、迎えたというのに。
君は許さないだろうけど。君は自分を責め続けるだろうけど。そしたら私は君の心の中に生きていられると思った。そんなことは無いのだろう。
あの日見た星は、今の私を知っていたのだ。
今日、彼女のものになった彼を思い返して、もう星を見ることはやめて。それでも上を見て、自分の足で大地を踏みしめて、遠くへ歩き出すんだ。
α Aql ≠ α Cyg