「ふくぢょおおおおおおお」
「うるせェ!」
「大変なことが起きました!」
「何だ」
「マヨネーズが!!マヨネーズの!!マヨネーズで!!」
「マ…マヨネーズがどうした!?」
「副長の愛するマヨネーズが全てハーフアンドハーフにすり替えられています!!」
「なん…だと…?総悟の奴…シメる」
「やめてください時間の無駄です!」
「あぁ!?だが腹の虫がおさまらねえ!!」
「この際ハーフアンドハーフに切り替えたらどうですか?」
「ハーフアンドハーフなんて邪道だ邪道」
「じゃあハーフアンドハーフ+マヨネーズとか」
「お前がやれ」
「いや意味わかりませんしそもそも私はそんなにマヨネーズが好きなわけじゃないです」
「マヨネーズバカにしてんのか!?マヨネーズは万物森羅万象に対応できるオールマイティーアイテムなんだよ!!!」
「マヨネーズへのリスペクトが足りてないのは副長の方では!?そんなにマヨネーズが好きなら自分で作るぐらいの根性見せたらどうですか!?!?」
「……!!!」
「さようなら!!!!!!」





!!!!」

 ダダダダダダダダという音が聞こえてきたと思いきや、スパーンッッッと勢いよく障子を開け放った正体は副長だった。いやナチュラルに開け放たないでください。仮にもここは乙女の部屋なんですけど。
 え?乙女?どこ?顔によだれこびりつけたチンパンジーしかいないって? うるさいたたっ斬るぞ乙女はここ!ここにいる!!!それは私!!!!!
 ところで緊急事態でも起きたんですか?一体何があったの?今、朝じゃないですか、鳥がチュンチュン鳴いてますよ。そして私はとてつもなく眠いんですけど。

「何考えてるんですかこんな朝早くに。脳味噌=マヨネーズになったんですか?」
「時計見ろ!いやそれよりもこれを見てくれ!」

 時計とそれどっち見ればいいんだ、と思いつつ、ずいっとこちらに差し出されたボールの中身を覗き込む。そこにはきめ細やかに混ざり合ったマヨネーズ様がいらっしゃった。分離なんて言葉はこのマヨネーズには無いらしい。俺は市販のマヨネーズではないさハッハッハというプライドと、確かな実力を感じる。なんということでしょう、副長はついにマヨネーズを自作したようです。でもそれは私にとっては全く緊急事態じゃないので起こさないでくれてよかったんですよ。にしても…

「……ホント完成度高いですね」
「今からお前にもこのマヨネーズの作り方を教えてやる」

 ついてこい、と唾液が顔にこびり付いたままの私(断じてチンパンジーではない)の手を乱暴に奪って早足で歩きはじめる副長。手の大きさもそうだし、何より絶望的に歩幅が違うので、小走りにならなければ文字通り廊下を引き摺られるはめになる、ため私は非常に必死。そして、今は朝ではなかった。夕方だった。そうですよね、鳥はいつでも鳴きますもんね。昼寝していた事は分かりました。私の脳味噌が右脳左脳で分離状態のマヨネーズだったことも理解しましたから、この顔を他の隊士に見られるのだけは勘弁願いたい、顔洗わせてくださいお願いしますゥゥウ!!!

「副長手を離せください!!顔洗ってきていいですか!?洗ってきますね!」
「大丈夫だ。お前だってこの完璧なマヨネーズを作れるようになる。してやる!」
「結構です遠慮します!」
「油を一気に入れると分離するから駄目なんだ、少しずつ入れて徐々に乳化させる必要があってだな…」

 あ、駄目だ。この人トリップしてる、思考が。ぺらぺらぐだぐだマヨネーズについて語ってる。もう止まらない。時々出てくる専門用語にマヨネーズへの愛は感じる。しかし顔は洗えそうもない。他の隊士とすれ違わないよう天に祈る事しか出来ないなんて。無力だ。
 無駄に良い声でマヨネーズについて語っているこの人の背中には形の良い筋肉がついていてとてもやばい。時折こちらを振り向き射抜く開き切った瞳孔は、顔にも雰囲気にも最高にマッチしていてすごい。ほんとやばい。完成度が高すぎて語彙力が死んだ。しかも副長は振り向きざまに、私が小走りになっていることに気づいたようで、速度を落としてくれた。顔は洗わせてくれないが、こういう気遣いは出来る男、フォロ方十四フォロー。でも、今もなお無駄に良い声が聞こえるので、ま〜だ延々とマヨネーズについて語っているんだろうな、台無しです。しかし私には何を言っているのか分からないので大丈夫。私の耳にはいつしか日本語シャットアウト機能がつきました。声は音として聞こえるけど意味がワカリマセーン、あなたがしゃべっているのはマヨネーズ語デースカーラネー。突然変異を遂げた耳。ギネスに載っけていいですよ。にしても、ほんとに残念だなこの人、マヨネーズとニコチンを禁じれば最高にまともでかっこいいのに。でもそれらを抜かれた副長なんて副長じゃないな。ただのイケメンだ。さすがです、マヨネーズ王国の☆プリンスさま。


 引っ張られながらマヨネーズ王国のプリンスを眺めてたいたら、いつの間にか食道に着いていた。だがそこは、卵と酢と油まみれの地獄と化していた。
 これだけの犠牲を払ってあのマヨネーズを作り上げたのかと思うと、何か胸に熱いものがこみ上げてくるが、一体これほどの犠牲を払う必要があったのだろうか?駄目だ考えない方がいい。考えたら負け。突っ込んだら負けだ。求む山崎。私の代わりにこの惨状について言及してくれ。頭を抱える他なかった。

「いいか?このぐらいの量をだな、少しずつ混ぜる」
「……」
「オイ真面目に聞け」

 ごめんなさい聞いてません。キコエマセン。聞きたくありません!
 人が親切に説明してやってるっつうのに…って求めてない!求めてないよ!

「お前なァ、何の為に俺がマヨネーズの作り方教えてやってると思ってんだ」
「声を大にして言います!分かりません!」

 今度は副長が頭を抱えた。失礼な。何が悲しくて、酢の中心で油のいない痛さわかって、はじめて僕の心に「卵が無い」と気付かねばならないのか。マヨネーズの定義とは一体全体何なのか分からなくなってきた。駄目だ、さっきから私の思考もサヨナラバイバイしてる。助けてマ○ラタウンの山崎。

「…で、何で私にマヨネーズの作り方を教えて下さってるんですか?嫌がらせですか?」
「…………お前の作ったマヨネーズが食いてェからだ」
「え?なんですって?ごめんなさいよく聞こえませんでした」
「だから!俺の為に毎朝マヨネーズを作ってくれ!!」
「聞いたことないプロポーズですねえ?……え?」
「細けぇこたァいいんだよ!」

 え?え?いいって何が!?マヨネーズ作りを再開する前に、肯定なのか否定なのかはっきりしてくれませんか副長ちょっと!微妙にドキドキしてしまって頬に熱が集まり始めたじゃないですか。どういうことなの!? 突然部屋を開けられても蹴り飛ばさないし、なし崩し的に手を繋がれることを許してしまうし、なんだかんだ食道に連行されている時点で、私に関しては大いにお察しではあるんですけど、そういうこと何も言わないからこの人は。何かがツンと鼻にしみた。

 酢 だ !

 うっ痛い涙出てきた…それに酸っぱい、酸っぱいぞ……。駄目だ、ドキドキしたの一瞬だった。酢が鼻腔を満たし一瞬で目が覚めた。吊り橋効果って本当にあるんだろうなと確信した程度には。酸っぱさが完全に鼻に刺さったので、心臓は通常運転に戻ったし頬の熱も引いた。まったくもう、ただのマヨネーズニコチン男のくせに。注:抜いたら理想。
 かなしいかな、副長への想いは一緒に冷めてくれなかったようで自分にげんなり。副長はといえば、全く私を気にもせず、パックから新たな卵を取り出している。

「マヨネーズを作る時に一番大事なことは……」
「副長への愛ですかね」

 大層ひねくれているだろう顔に疑問符を張り付けそう言った私を見、自分が何を言っていたのかやっとこさ理解したであろう副長。が動揺して手を滑らせ持っていた卵を床に落とし、酢に肘を激突させ亡き者にして、終いには油をぶちまけた。流れるように華麗に決まった一連の悲劇は見なかったことにする。なんで蓋しめてなかったんですか、バカなんですか? まあでも真面目に作り方は聞いておこう。副長直伝のマヨネーズが作れれば将来安泰みたいだし。これから卵と酢と油との、修行の日々が始まるの。リリカルマジカル、がんばります。
 でもこの食道の大惨事は、自分で片付けてくださいね。

マ ヨ を 崇 め よ