「だから独断専行はやめてくださいって言ってるじゃないですか、バカなんですか?」
 誰がそんな無茶をしろと言った。先輩監視官だった狡噛さんが標本事件を契機にサイコパス悪化の一途を辿って更生施設にぶち込まれたのが数か月前。そして本日執行官として復帰を果たしてからの初陣だった。誰も追い付けないほどに能力値を上げきってしまったこの人は佐々山を追いかけるように独自の勘で独断専行全て俺に任せとけ大魔王になってしまったようだった。ちゃんちゃん。
 ってここで終わらせてはいけない、周りの心配を考えてほしい。宜野座さんの血管が切れそうだし、監視官に負担をかけないのも執行官の仕事じゃないのか、第一あなたは佐々山にそうやって苦労させられてきていたのを私はちょいちょい知ってるぞ。
「結果よければ全てよし、だろ?」
「いいわけあるか!お前を監視することも仕事の一つである俺達の事も少しは考えろ!この大バカが!」
「何だギノ、お前俺が逃げるとでも思っているのか」
 ぽかんとした顔で問いかける狡噛さん、いやそういうことじゃない。
「じゃあこうしましょう、狡噛さんが槍の雨の中を行こうがなんだろうが、次から私も絶対に着いて行きますからね。覚悟しててくださいよ」


 さて、その言葉通り狡噛さんの背中を追っかけているわけだが、あの凄まじく長い脚で繰り出される歩幅の大きさに勝てる訳も無し、微妙なところで彼を見失った私は見事に一人ぼっちなのであった。あんなこと言った手前もうちょっと気にかけてくれるかと思ってたの…そんなことなかったの…私じゃ彼を変えられない…グスッ…。それに廃材で何も見えないんだもん…この廃材を駆け上がって行ったのかあの人は?私にはあのように長い脚は勿論のこと屈強な肉体も鋭い刑事の勘もないので、事件の犯人男に見つかったらなんかもうそれだけでおしまいな気がします。キャー。
 ジャミングがひどくて誰とも通信が取れないし、ドミネーターはただの銃の形を模した打撃武器と化してしまっているので、何か武器を手に入れなきゃ死ぬ気がします。ということで散策しよう、暇だし。滅多にできることじゃないね!わぁい!あっなんかいい感じの鋭利なパイプ落ちてる。しかも短剣サイズだし。これはうれしい!ひのきの棒もといドミネーターから大分出世した武器だよ、おめでとう私!▼は、パイプを、手に入れた! 楽しくなってきた、サバイバルごっこかな。私が鬼のはずなのに生き残るために逃げ延びなければならないとは…刑事とは…?監視官とは…?
 やだ、私、弱すぎ?参った。
「死ねええええええ」
 ヤダ死ななーい!死にたくなーい!死ぬのはお前だー!後ろからとびかかってくる潜在犯をやっとのことで避けて反射でドミネーターを構えるが、この銃は今使い物にならないんだった終わってた!
 早々に捕獲も執行も諦めた私はクソ重いドミネーターで相手の脳天を殴り形態していたスタンバトンで応戦の構えをとる。構えをとるだけである。応戦できるとは言ってない。しかしながら後ろの方で物音が聞こえるんだよな、勘弁してほしい、一体狡噛さんはどこへ行ってしまったのか。今も物陰でこいつらの執行のタイミングを窺っているはずだと信じさせてほしい。
 …ハァ…そんなわけないんだよなぁ……明らかに下っ端のこいつらなんて眼中にないだろう狡噛さんは大元の犯人と取っ組み合っている頃だろう。ヤッダー自分でこの大男2人をどうにかしなきゃいけないとか。コワーイ。
 スタンバトンを振り回し間合いを取らせ、壁を背に後ずさって行く。
「おいおい、ネーチャン状況わかってんのか?」
 壁を背にするなんてバカだぜ?お前等の方がバカだぜー!狡噛さんよりかはマシかもね!しゃがみこんで、さっき拾った鋭利なパイプで一人の太ももを突き刺した。
 あがる鮮血と絶叫しながら悶えている仲間に驚き恐怖したもう一人の大男が棒立ちになったので、スタンバトンで股間を殴りあげた。わーい。うれしくなーい。
 パイプを一人の足から引き抜いてドミネーターを回収せねばと腰を上げるが、復帰の速い足パイプ男に後ろから飛びつかれてしまい万事休す。地べたとごっつんこ☆したおでこが痛いが仕方がない、といってもどうしようもないのでどうしようと思っていたら転がされ仰向けにされ、シャツを破られた。イヤーッ!このヘンタイ!普通に傷つくけど。ということで、鋭利なパイプをそいつの眼球めがけて突き刺したらそいつは動かなくなった。あのままバックで犯せばよかったのに。ほんとバカだな。しかも護身術のごの字も知らないみたいだし。相手の肩を固めないとかバカなんですか。バカなんだった。まあおかげで助かったけど!
 と次だ、と起き上がったら隣の大男は内側から沸騰して消えてしまいました!まあ!魔法だわ!「!!無事か!?」そんなわけあるか。
 既に返り血にまみれている元気むきむきマッスルゴリラさんの大層遅い到着により助かった模様。って置いてったくせに!置いてったくせに!!無事もクソもあるか!置いてったくせに!私が着いて行けなかっただけだけど!かなしい!それに今更こなくたって一人でなんとかできたもんね!べー、だ。
「無事に見えます?」
「ッバカ、これ着てろ」
 ブラジャーまるだしで向き合ったら動揺した狡噛さんはそっぽを向いた。えっやだ私より年上なのにそういう可愛い反応やめて。っていうか今日のブラジャー可愛いと思うから見てもいいですよ。足眼球パイプ男に見られたのにどうして狡噛さんがダメだっていうんでしょう。どちらかというと見て触れて私の脳内からその男の存在を消し去ってほしいわ。
 ジャケットを私にかけた狡噛さんが、それに守れていたんだろう未だ真っ白で無事なシャツの袖で私の血まみれの顔を拭って行く。かわいそうに折角無事だったシャツ。汚していいんですか?汚していいんですね?ならまどろっこしいやい。
「心配なんですよ、わかりましたか?」
「あーあー、よくわかったよ」
 ほんとかよ。しゃがみこんでくれていた彼の胸に顔面ダイヴをきめる。割と念願だった。念願かなって嬉しい。私は贅沢にできているので更なる欲望に任せてその背中に腕をきつく回した。かたすぎる。ついでに足痛い。ひねってるわ。安堵の痛みかな。
 っていうか、ナチュラルに人を自分の手で殺してしまったな。まあ初めてでもあるまいに、そこまでダメージはないはず、だけど。眼球から脳を貫くとああいう感触がするんだな。そういえばドミネーターは復活してるみたいだから、
「狡噛さん、私の犯罪係数はかってもらえます?」
「…クリアホワイト。何の問題もないな」
 渋々と言った風にそれを向けて計測を終えた狡噛さんが、それを足元に置いて再度私の頭を抱え込んでくれる。どうしたの狡噛さん、私を殺す気ですか?おでこをぐりぐり押し付けていたら、俺もお前ほどつよければな、とふいに落とされた言葉に、目を伏せた。
「いいや、違う。いいんだ、大丈夫か、無理するなよ」
「あなたにだけは言われたくありません、っていうかお風呂入りたい、足捻って動けないんで背中流してくださいね」

つよくいきる