「慎也って、結構頭悪いよね」
「…喧嘩売ってんのか、
「三割くらいは心配だった」

 ガコン、とドリンクサーバーにイチゴミルクを吐き出させた。ペットボトルの中身はちゃらんぽらんな色をしている。慎也に突き出した。丁度いいところで会った。彼の頬には相変わらず大判絆創膏が張られている。

「いらん」

 拒否された。キャップをあけた。緩く閉めた。それから彼に飛びかかって彼の後頭部をソファに激突させてやった。ソファはふかふかなので全く問題がない。いつもの彼なら避けれただろうが、私を庇って大怪我を負い、本日やっと復帰してきた慎也には避けられなかったのだ。呻いている彼の腹の上に跨りなおす。

「――~~おい、何するんだ、、」

 結構怒っている彼が無様にも口を開けたので、イチゴミルクのキャップをあけて液体を口に流し込んでやった。甘ったるい変なにおいがしてくる。しかし顔を背けようとした慎也のせいで、慎也の顔面がイチゴミルクをかぶってしまった。可哀そうに、さぞかしべたべたするだろう。顎を引っ掴んできちんと口を開けさせて凄い角度でそれを注ぐ。あとでドローンに掃除させればいいや。無理矢理に喉を満たされている慎也が私の下でごほごほ言っている。とても可愛い。私の色相は300オーバーかもしれないけど、私には異常というものが分からないし、そんなの考え方と誰かの主観でしか無いだろう。私にとっては普通だ。当社比異常では全くない。世間比異常でしかおそらくない。そしてそれはシビュラが証明している、慎也もである。濁る色相が無い。無問題だ。

「が、ぁ、っげほ、」

 彼が声にならない声を上げている。肺に入ったんだろう、かなり苦しそうだったから、優しい私はイチゴミルクを注ぐのをやめて、キャップを閉めた。満足したともいう。私ってば超優しい。一番優しいのは私を蹴り飛ばさない慎也かな。何で蹴飛ばさないのか、少しくらいやましい心があるからだろう。蹴り飛ばしてくれても良かったのに。

「っう、っはあ、」

 慎也が息を整えながら涙目で私を見上げている。何だか凄く可愛いなと思ってしまって胸がドキドキしてきた。なんでこんなことをしていたんだったか。好きな子を虐めたい心理だな。だから私はイチゴミルクなんてものをチョイスしたのかもしれない。恋はレモンよりイチゴの方がいい。で、恋といったらミルクだろう。ただの欲求不満もある。久しぶりに今日こそ相手してもらえるかと思ったけど、この調子じゃ無理だろうし。あとは純然たる怒りだ。

「慎也は足癖がいいね」
「――怒るぞ」
「もう怒ってるよ」

 イチゴミルクのキャップをあけて、ぎくりとした慎也を見ながら一口飲んでみた。バカみたいな味がする。キャップを閉めた。たまには悪くないけど、こんなものより私の血とこの人のあれを混ぜたものの方がよっぽど苦くて甘くて最高においしいや。これが缶だったなら、首でも切って彼の口に垂らすのに。

「退いてくれ」

 彼の頬の絆創膏をびりっと剥がす。彼の片目が瞑られた、綺麗な顔をしているんだよな。あと、心根も多分私よりよっぽど歪んでいない。元々監視官様だったらしいし当然か。

「っ~~、――、いい加減にしろ!」

 彼がそう言って私の肩を凄い力で引っ掴んで形勢逆転をきめたくせに、見上げれば、傷に響いたんだろう彼は、目を瞑って息を漏らして耐えていた。

「慎也って、結構頭悪いよね」
「…お前に言われる筋合いはない。それにやっていいことと悪いことがある。第一、俺がお前を庇ったのに何でお前にこんな仕打ちされなきゃならないんだ」
「誰も庇ってって頼んでない」
「ふざけるな、あそこでお前が食らってたら命がなかっただろうが」
「――分かんない?死にたかったから怒ってるんだけど」

 彼の頬の傷に爪を立てよう、と伸ばした手が、再度、ふざけるな、と言う彼に引っ掴まれた。みしみしと骨が軋んでいる。この人の握力があれば私の腕なんか粉砕できるんじゃないだろうか。

「痛いのは嫌だよ、心臓を握り潰してくれる方をお求めです」

 やめろ、と言ったのにそれは受理されず、彼は殊更力を込めた。痛いじゃないか。そして、その痛みよろしく苦しそうに眉を狭めた慎也が力なく私の上に倒れこんできた。この人はセフレに情がわくタイプだな。人には自己愛しかないというのに。

「死にたいなんて言うな」

 私にもまだ人の心は残っているので、――何故なら人間らしく動物らしく形態を維持し本能に従っているから。だから、心臓がきゅんと握り潰された。そういう意味で言ったんじゃない。ついでイチゴミルク並みに甘ったるいことを言っている彼にイラっとした。あんたが言える台詞じゃない。

「慎也って、結構頭悪いよね」

 彼を突き飛ばそうとしたが重くて動かなかった。ぎゅっと抱き締められて、安心はするが気に食わない。慎也は、自分が生きてるうちに私に死なれたくないだけだ。私は彼が好きだけど、私は私が一番好きだ。彼もそのくせして。勝手に虚無を飼っているのだ、二人。

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