「狡噛さんって、いいカラダしてますよね」

 この肉体が見れるから、そんな不純な動機で通いだしたトレーニングルームで見たままを発言した。「そうか?」と返ってきた。ここまでは普段通りだった。彼の雰囲気以外は。
 一係は最近忙しそうにしている。外は少し肌寒くなってきたから、室内の温かさが身に染みる。私は、巻き添えを食い始めている二係で、先輩の青柳さんと一歩引いて彼らを見ている。引っ張られるんじゃないわよ、青柳さんの言葉には耳が痛い。神月くんはどうなっただろう。先輩の色相管理は見習わなきゃならない。だから。
 それに、今日は一段とそんな気分だったので、彼の逞しい胸板に手を伸ばして触れてみた。かたいながらも弾力のある胸筋で遊びながら指を滑らせて、素肌に触れたいと思った。彼は一筋縄ではいかない。そんなことは知ってる。優しすぎるのも知ってる。付け入ってやろう。素直が一番だ。

「私、狡噛さんとセックスしてみたい」
「…………なんだって?」
「嫌ですか?」
「そういうことじゃない、」
「私じゃ欲情できない?」
「…もっと自分を大切にしろ」
「狡噛さんにだけは言われたくないセリフ」

 彼のトレーニングウェアに手をかけた。おいおい、と彼の手ががっちりと私の手首を捕らえた。彼の親指が私の腕にめりこんでいる。微塵も動かすことはかなわない。骨と骨が肉の下でごりごりと重なる感触がなんだか好きだった。けど、むしゃくしゃするので、彼の足の間に片足をすべり込ませて体を密着させる。

「ずるいです、力で勝てるわけないじゃないですか」
「遊びのつもりならやめておけ、離れないか」

 ぐぐ、と力を込められて、踏ん張るべく足を下げなければならないところだが、あえてしない。私の背後にはトレーニングマシーンが並べられているので、私が後ろへこけたら怪我をするのである、ということは狡噛さんも百も承知のことなので、あえて自ら突き飛ばされてさしあげよう? と私が力を抜いて彼の手首を逆に押し返そうとしたところで、やはり狡噛さんは私を引き寄せたのだった。

「危ないことを考えるな」怒った風な声で、お前のやることなんざお見通しだ、と狡噛さんは言った。
「狡噛さんが優しくてよかった」ぎゅっとしがみついて頬を寄せて、彼の引き締まった腰に手を回した。
「優しくなんざないさ」はっと吐き捨てた狡噛さんの表情を見ようと顔を上げた。もう一押しだ。
「私、狡噛さんのこと結構好きです」「身体が、だろ」「顔も」「お前な…」

 呆れかえった彼としばらく見つめ合ったのに彼はキスしてくれなかった。

「どうしてもダメ?」

 言葉に詰まった彼は、数秒間押し黙った後ゆっくりとひとつまばたきをして首をおった。私の背に手が回って、彼の唇が私の唇を奪った。
 子供みたいなキス一つで離れようとしたその唇を追いかければ、後頭部を鷲掴みに寄せられて、彼の舌が入ってきて私の口内を犯していく。彼の呼吸にあわせて煙草の臭いがしてくるはわかるのに、うまく息ができない。とろけるくらいに彼の舌は熱く思えた。いやらしい水音が響いて、ともいえぬ緊張感と背徳感が満ちる。溢れそうになって、飲み込んでいる唾液は誰のものだろう。
 その口付けに酔い痴れて、目にじわりと涙の膜が張ったところで、彼が口を離してしまった。名残惜しさを覚えつつ息を整える。

「満足したか」低い声で囁く彼は余裕だった。
「っはあ、しません」彼の首に腕を回して引き寄せる。
「欲張りだな」「狡噛さんこそ、その耳はなんのためにあるんですか」耳元で囁く。
 私は抱いてっていったんです。



 部屋に狡噛さんを連れ込んで、扉の内側で激しいキスを交わしていた。私も彼も不特定多数の人間が出入りする場所で致す趣味もなかった。彼のウェアにかけた手はもう振り払われなくて、上着を取り払った彼の上半身は見慣れて、いるような、いないような。この人はよくこの半裸を露わにしているけど、ここまでじっと見たことも、触れたこともない。ずっと触れたいと思っていた。
 ぺたり、と肌を撫でる。隆起した首元、張った鎖骨に、バランスのいい胸板、きれいに割れたシックスパック、骨盤とあいまったその下。

「くすぐったい」

 苦笑する彼の形の良い腕を、上から下へと伝って、背中側へ回る。背骨の際から広がっている筋肉にさらに頬が熱がのぼった。これは女にはおおよそつけられない、許されないものだ。私の背中なんて、肩甲骨が骨ばってるばっかりで、その上に大した筋肉などついてないだろう。彼の背を好き放題撫でていると、「もういいか」「やだ、まだです」
 私もウェアを脱ぎ去って、その背中に抱きついた。体温が交じる。頬ずりをして、彼の胸板を抱きながら、腰から上へと、背骨の谷間に舌を這わせて、もう届かないってところで強く吸ってキスマークをつけた。狡噛さんの吐息が聞こえた。「」こんな声も出せるんだ。
 緩まった私の腕を取って狡噛さんがこちらへ向き直る。彼は私の手をそれにそわせて、少し恥ずかしくなって目線が泳いだ私を見て、くくっと喉で笑った。そのままそれを撫でていると、彼の指が私のうなじに触れてどきりとした。そのまま彼の手は私の背中を優しくつたってウエストを抱いたが、反対の手は私の胸の谷間に指を埋めている。…遊ばれている気がする。

「トレーニング向きの下着とは思えないな」
「……いつもそうでしたもん、可愛くていいでしょう」
「そうだな、可愛いよ」

 っこの…。仕返しに、硬くなりはじめた彼のそれを撫でる力を強めてやる。「は、あ、焦れったいな」息を漏らした彼が私の背中のホックをあけた。彼の顔をのぞき見たら目が合って、口を塞がれて、なんだか恋人同士の行為にでも錯覚してしまいそうだった。

 下着を脱ぎ散らかして、ソファにどっかりと座りこんだ彼の太腿に跨って、キスを交わす。彼の手が私の胸を弄っている。私は指でカリのまわりをなぞって、先端をなでつけて遊んでいる。顔を歪めて呼吸を漏らす彼がただただかわいかった。彼の竿をしごいて、呻いた彼が仰け反って。その魅力的な喉仏に思わず噛み付いた。

「…お前、結構暴力的な趣味してたんだな」
「だっ、だって」
「俺もだ、って言ったらどうする」

 どさりと私を押し倒した彼の瞳は肉食獣のそれだった。どうやら何かのスイッチを入れてしまったらしい。私の両手首は彼の片手にまとめ上げられている。私はまだまだ彼を堪能し足りないのに。

 彼は私の胸を揉みしだいてから、触れるか触れないかのところでその中心に指を滑らせたりして遊んだ、かと思えば鎖骨あたりにガリ、と犬歯を突き立ててきたり、先端を摘み上げて離してみたり、耳をなめては舌を入れてみたり。「狡噛さ、っひゃ、待って、」強弱の激しい快楽と聴覚に頭が混乱する。「冗談だよ」低くかすれた彼の声は、いつだって脳髄に響く。舌なめずりをした彼の今までの行為は全く冗談だと思えなかった。

 背を抱かれて促されるまま、起き上がらせてもらう。肩で息をしながらそのまましな垂れこんで、座っている彼の脚の間で、先端から先走りを滴らせながら、痛いほどにたちあがっているそれを、しばらく見つめてから口に含んだ。男性独特の苦い風味が強かった。私の口内に含まれたとき、一緒にぶるりと震えた彼の腹筋から目が離せなかった。
 仄暗い部屋に厭らしい水音が響く。カリのまわりを舌でなぞってみたり、先端をちゅっと吸ってみたり、時折漏れる彼の呻き声がたまらなくかっこよかった。男の人のものだとすぐ分かる脚を撫でて、やわやわと睾丸を揉んで、口はかぶりついたままフェラチオを続ける。彼は私の頭を優しく撫でつけたり、背中に指を這わせたりしていた。さっきから繊細な快楽ばかり与えてきて気が可笑しくなりそうだった。
 根本をきゅっと握ってしごきながら口を大きく動かせば、「うあっ、もういい、、」濁点のついた荒い息が彼の口から漏れ出た。楽しくて楽しくて、やめろと私の肩を持って引き剥がそうとする彼に抗って、いっそ激しく手を動かして、亀頭を舌で回して、ぐいぐいと舌を押し付けたり、ちろりと舐めたり。ろくに抵抗なんかできない彼がビクビクと痙攣して昇り詰めていく。最後に尿道をちゅっと吸い上げれば。

「あ゛、あっ、ックソ、出る」

 背中に彼の指がめりこんで痛いのに、それすら快感に変わる。やわやわとしごき続けて、狡噛さんの断続的な喘ぎ声が荒い息に変わって収まり始めたころ、口を離して、彼の精液の味を堪能する。喉にひっついたそれは青臭いし、狡噛さんはニコチン中毒だから仕方ないけど、やっぱりそれは苦くて、到底好ましいとは思えない味のはずなのに、どうしたって甘くておいしくて、いくらだって欲しくなった。
 嚥下しながら体制を整えて、顔を腕で隠している彼のそれを引き剥がして、上気した頬の彼を目に焼き付ける。なんだかひどく可愛かった。胸が高鳴って仕方なかった。しかし彼はギロリと私を睨むと、「もう加減はなしだ」狼が唸るような低く甘い声で私を押し倒して唇にむしゃぶりついた。

「っん、狡噛さ、」

 この人は分かってやっていたのかもしれない。散々のフェザータッチで快楽の認識を狂わされていた私は、狡噛さんの腕の中でよがるしかなかった。愛液を絡めとった彼の指が私の陰核にそれをなすりつけて、その度に体が跳ねた。一方の彼が手が胸の先端を弾いただけでも体に電流が走るようだった。

「名字通り、っん、だったんですね、っひああ」ろくに話せすらしなかった。彼が胸の飾りを口に含んで、きゅっと段階的にしめつけて、最後にそれを離すの、頭がおかしくなりそうだった。
「お前があんなにうまい方が計算外だった」顔を離した彼に恨みがましい視線を送ったら、思ったよりも複雑そうな顔をしていて少し笑えてしまった。可愛かった。

「狡噛さん、可愛い」
「……あんた、そんなこと言っていいのか」

 仕返しと言わんばかりに狡噛さんの顔が降りて行って、陰核の甘皮がむかれて、おそらく秘豆を露出させられた、それからそれを口に含まれて、もうそれだけで体が震えだしそうだった。ただ口に含まれているだけで、まだ何も、されてないのに。期待と恐ろしさで胸がすくんだ。

「や、狡噛さ、おねがい、やめ、っあああ!」

 れろり、と下から上へなぞられて瞼の裏が白く染まる。ちゅ、っちゅ、と吸われて、際を彼の舌がいったりきたりを繰り返す。声なんて我慢できない。「狡噛さ、だめ、っああ、んんん!」強すぎる刺激をどうしたらいいか分からなくて、視界が滲んでくる。

「っも、やぁ、狡噛さんを、ちょうだい…」
「まだダメだ」

 ツンツンと舌でそれを押して、上下に弾いて、こねくりまわされる。体が震える、気持ちよくてどうしようもなかった。

「イっちゃ、いっ、っあ、ひああっ」

 一際大きな快楽の波にさらわれたところで、彼はちゅっと最後にそれを吸って口を離した。それにまたイかされて、脱力しきった私は渇いた喉で酸素を求めた。
 私の擦れた声に気づいた彼がすかさずキスをしてきて、私の喉は彼の唾液で潤される。彼は私の頬をひと撫でしてから、その手を下げていく。

「すごいな」
「っ待って、イったばかりだかっひあ、」

 そこに触れられたと思ったら、まずは一本、なんのひっかかりもなくぬるりと入ってしまう。抜き差しして、外壁をかいて、また一本。探るようにばらばらに動かして少し広げてから、指を曲げられた。
「っあ、」丁度いいところにかすって、耐えられなくて声が漏れた。潜在犯の笑みをかいたその口に肌が粟立った。「ああっ、っふ、あっ、んん、」指を曲げてそこを刺激し続ける彼は凶悪な笑みを浮かべている。

「随分よさそうだな」

 くやしくて、彼の腕に爪を立てた。彼の口角が更に上がる。痛いのがお好きなのかもしれない。たぷたぷという感覚がしてきて、「狡噛さん、ほんとっ、に!だめっ、よごしちゃう、から、」「かまうな」はあ、と私を見て彼が欲情している、その事実ひとつで死んでもいいくらい嬉しかった。指がその上辺を強くこすりつける。「ん、っひあ、イっちゃ、だめ、あっあっ――あああ!」ぷしゃ、と潮を吹いたのが分かった。恥ずかしくて顔を背けたら、狡噛さんが私の顎をひっつかんで目を合わせた。

「お前、結構可愛いな」
「~~っ、狡噛さんは、思ったより、サドです」

 退いて、私の顔の横に膝立ちになった彼が、それで私の頬をぺちりとたたいた。「」いやらしい顔。また口に含んで、それだけで質量を増す彼の反応が嬉しかった。彼は私の頭を撫でて、いいか、と聞いた。多分、私たちは最低だ。アフターピル飲めばいいや。けどもしあたってしまっても、私は多分喜んで生むだろうから。私は狡噛さんのことが好きだった、大好き。熱に浮かされたままの頭で頷いた。

「入れるぞ」

 私に跨った彼が私の足を大きく開いて腰をうずめる。「っ、ん、」質量に息がつまる。ずず、と推し広がっていく感覚に身体が歓喜する。熱い。「っはぁ、そんなに締めるな」腰を少しひいたり、また押し進めながらして、子宮口に彼の先端がぴたりと触れ合ったのが分かった。狡噛さんが私の指を絡め取って恋人つなぎに私を愛でている。手の甲を撫でられるその感触すら気持ちよくて、嬉しかった。
 けどしばらくしても動いてくれなくて、腰をゆらゆら動かしてみたら、彼が手を離して、がっちりと私の腰を押さえつけてしまった。動きたいのに全く動けない。それなのに、亀頭をごり、と奥にはめこまれて吐息が漏れる。

「…っ、なんで、ね、その」
「なんでだと思う?」
「……意地悪です」
「いいや。馴染ませると具合がいいんだと」

 知ってたか?彼が耳元でやらしい声で囁いて、やっと律動を開始した。「っあああ、ひゃ、っん、狡噛さ、!」まずいかもしれない、飛びそうだ、ぞくぞくする。意味わかんない。きもちいい。彼の首に腕を回してしがみつくも、奥にはまりこんでしまって、苦しいくらいに気持ちよかった。

「ま、って、っひゃああ!」

 彼の先端が私の子宮口に当たるたび甲高い声が漏れて、狡噛さんが動くたび彼の汗が私に落ちる。好き、好き、大好き。ずっとこうしてたい。

「っはあ、気持ちいいな、、」
「っへ、っきゃ、あっあああ、」

 耳元で名前を呼ばれて、驚く間もなく、激しく揺さぶられて快感が背筋を上ってくる。涙が零れた。荒い息で二人交わって、舌を絡めて、力が入らなくて、彼が溢れている私の涙を舐めて、顔を離した狡噛さんは笑っていた。いつも余裕そうな彼の顔が歪んでいる。
 彼に手を伸ばしたら、深いキスをくれた。彼の顔を包み込んで額をそっとあわせて、ああ、幸せだなと思った。ほんの一瞬、けれど満たされて、整わない息のまま顔を離したら、彼の顔は歪んでいた。何も言える言葉が無くて、何も言って欲しくなくて、だから彼の首に手を回して、足を絡めた。狡噛さんも私の腰を掴んで、激しく突き上げてくれて、たまらない。彼の背中に爪を立ててひっかいて、でも耐えられなくて、視界がちかちかして、頭がふわふわしてきて、全てとろけてしまいそうだった。

「ひゃああ、きもち、っあ、」
「っはあ、俺も、いい」
「ね、一緒にいきたい、ちょうだい、慎也さん、」
「お前、煽るな!」

 二人一緒に上り詰めて果てた。中に注がれている彼のものが熱い。狡噛さんが深い吐息を吐きだして、断続的に漏れ出るその声に私はまだ浮かされている。狡噛さんはかっこいいのだ。
 彼が倒れこんできて、私にキスをする。その背中を大切に抱く。あわさっている心臓は二人分うるさい。微睡んで目覚めたら。
 ――いいや。もう少しだけこうしていたい。

中夜