事件解決、したけど、報告書直ぐ出してくださいとかいう局長からの謎要請、私たちは既に何徹したのかよく分かっていないというのに。犯人の執行者は狡噛さん。私は担当監視官。よって私と狡噛さんは居残り。以上。

 そんな勤務終わり。死んだ顔で報告書を書きあげやったーと椅子に座って死にかけている狡噛さんとハイタッチした。手が大きい。ついでに顔がかっこいい。あと性格も優しいのを知っている。そんな彼はお疲れ様だ、と立ち上がって背中を向けた。背中分厚い。足長い。あ。

「わあ、鍛えた男性のヒップがまあるいのって本当なんですね」
「…何してる、というかバカにしてるのか」
「まさか。でもちょっとかたくて、物悲しい気分です」

 やっぱり脚は女の方が綺麗だなって思いながら、彼のお尻に手を伸ばした。そして揉んでみた。しかし感想はさっきの通りだった。揉むというか、頑張って指をめりこませなきゃいけない、みたいな、なんていうの。これは悲しくなる。

、お前がしているのはこういうことだぞ」

 くるりと向き直った狡噛さんは大変微妙な顔をしていた。次いで仕返しだと言わんばかりに私のヒップを掴んでわりかししっかりと揉みしだいている。おかしい。これが徹夜明けのテンションというものだろうか。帰って早く寝ればいいのに、私も彼も。なんて不毛な時間を過ごしているんだろう、…私の出来心のせいでは。…だって今のオフィスなら絶対誰も出勤してこないもん。離れてしまった自分の手を再度狡噛さんのお尻に回した。揉みやすい体制になっている。でも全然柔らかくない。筋肉だ、これは筋肉だ。私のヒップはここまで硬くはない筈なのでまだまともかもしれない。いやそれなら私は自分のお尻を揉んでいればよかったのでは?というかそれより自分の胸が一番柔らかいのでは?私は何をやっているんだろう?

「………すまん」
「冷静にならないでください、私も私を攻撃しなきゃならなくなるでしょう」

 急に手の動きが止まって謝罪がなされたが離れてはいかなかった。ついでに狡噛さんが発した謎謝罪に撤回を求めたらその手は動きを再開した。私の指は力を籠めるのが面倒くさくなったので全く動いていないと言うのに。しかし何だか色々と面倒くさくなってきたので閉じそうな目元を優先させて変な気分になりそうなのを抑え込んで、彼のヒップから手を離して今度は胸筋に片手を伸ばした。ぺたり、と手をつけるとシャツ越しにじんわりと体温が伝わって来て、来たが、しかし、しかし硬い。もう片方の手を自分の胸に伸ばしたが最高に柔らかかった。触り心地は最高だ。自分にとっての癒し効果はあまりない。悲しいかな狡噛さんの胸筋の方が私にとっては癒しだった。お尻も癒しではあるけどちょっと想像とは違った。いやでも狡噛さんのお尻が私のように柔らかかったらそれはそれで大問題かもしれない。

「狡噛さんって柔らかいところないんですか」
「鍛えられないところだけじゃないか」
「舌と…目あたりですかね…顔のパーツ…?」
「……そんなに硬いか? あんたはどうなんだ、硬いところないのか、触り心地が良くて手が離れてくれん」

 開き直ってるこのお兄さんおじさんおっさん。顔がよくなかったらすごくあんうぇるかむ。狡噛さんはかっこいい上にかっこよくてかっこいいに加え優しいのは知っているので全然構わないんだけど、構わな…構わない?お尻揉まれて構ってないの私? いやでも彼のヒップに手を伸ばしたのは私が先行だった。わけがわからない。さっきは誰も来ないからいいんじゃないかいいじゃないかと思っていたけどここは普通にオフィスな気がする。ついでに業務終わったのにどうして未だに滞在してこんな不毛なことをしているんだ、私のせいだ!狡噛さんのまあるいお尻のせいだ!でもここまで来たらはっきりさせたい!

「どっちが柔らかいですか」
「二の腕か――…好みなのは尻だな」
「ファイナルアンサーは?」

 二の腕に誘導した彼の手を更に取って、自分の片胸にあてた。そしたら狡噛さんは固まってしまった。私の瞼も閉じてきたまま固まりそうだ。ゆらゆら頭が落ちてしまったので彼の胸筋に頭を預けた。硬い。あったかい。きっと低反発クッションと思えば。戻ってこないけど少しくらい沈みはする、そこにあるのは筋肉と肉と筋肉だ。ごりごりしても骨には辿り着けないかもしれない。そこまでしたら痛いんじゃないだろうか、いつかはしてみたいけどこんなクソネミ状態で力なんかこめたくない。ついでに頭に力を込めてもビームも何もでやしないだろう。帽子かぶったってだめだよ、子供の頃やったことあるよーうーるとらまーんうーるとらまーんしっくす。あまりに彼が微動だにしないので自分の胸の上にある狡噛さんの手の上にある自分の手で自分の胸を揉んでやる。意味が分からないけどちょっと気になるじゃないか、客観的にお尻と胸はどちらが柔らかいのか。個人的には胸の方が柔らかいと思いはするんだが実際のところどうなんだろうか。柔らかさで行けば断トツで胸な気もするけど。

「…選べん」
「そうですか残念です、自分でも答えが出せないんですよ難しいですよ。狡噛さんはどこもかしこも硬いけど私は胸筋のが好みですね、貸してください、枕ですよ、寝たいですよ、筋肉布団…?なんか嫌な響きですね…」

 全然関係ない多分狡噛さんの好みの話がかえってきた気がする。愚問ではあるのかもしれない。だからもう私も開き直ろう、いいじゃないか。手を離して狡噛さんの背中に腕を回してきゅっと引っ付くと、狡噛さんの手が私の胸から離れて、彼が身をよじった感覚を得て、からからと椅子が移動してるような音を聞いた。彼が多分それに座って、腰を掬われて私の足は地上から浮いた。ひえ。さすがに目を開けた。ら、横向きに彼の足の間にお尻を下ろされて、横抱きにされる形に抱え込まれてしまった。彼の顔を見た。…ちょっとヘンな顔をしている。格好良くて目に悪かったので眠気に任せてまた目を閉じた。

「妙な気分になりそうだ」

 額や鼻先に柔らかいものが押し付けられる。何か唇を当てられているような気がする。くすぐったい。しかし本当に眠いので落ちるのが怖いし狡噛さんはあったかいので身を向けてひっついてしまう、いいよいいよねごめんなさい。そして背中を支えられていようと頭が後ろに落ちていくのは止められないので、けどうまい具合にデスクと思わしきものがあったのでこれ幸いと後頭部を預けられました。わーい。狡噛さんよりデスクの方が硬い。狡噛さんは柔らかかった? 彼の手は再度私の胸元をまさぐって優しく揉んでいる。男性はかわいそうだ、癒しを求めたい時に自分に癒してもらえないなんて。でも私もかわいそうだ、狡噛さんに一番癒しを感じてしまうなんて。

「ねむい、です…」

 彼がデスクの上においている私の肩口に顔を沈めてきたようで重い。頬が合わさっている感触がする、非常に近しい。緊張しなくはない、していないけど、だってそれ以上に眠い。彼の胸元を掴んでいた手を離して、その首裏に腕を回して幸福を感じながら、私の意識は息絶えた。


***


「……っ!?」

 薄目が開いたら家の天井じゃなかった。ついでに一係の天井でもない気がする。どこなんだここは、と大混乱で一気に覚醒した頭で起き上がり周りを見渡したら、ベッドの脇にどっかり座り込んでいた背中がこちらを振り向いた。

「…何で起きた。おはよう」
「な、あれ、待ってください、狡噛さん?の、胸筋が優しかったことは覚えてます」
「悪いが俺も覚えてる」

 狡噛さんの目は若干充血している。どういう状況なんだこれは、彼は服着てるけど私はって脱いでる感触ないし自分を見下ろしたけど服は着ていた。ジャケットは着ていなかった。首元のボタンは少々開けられていた。開けてくれたんだと思う。寝苦しくは全くなかった。でも頭が痛い。

「……服着てます、大丈夫です」
「今から脱がせていいか」
「おかしい、私の頭の中の狡噛さんが不埒なことを言ってます、変な夢を見てごめんなさい、寝て起きたら覚めてますね」
「バカなふりして逃げられると思ってるなよ」

 彼が膝を置いてベッドが沈んで、上のネクタイどころかジャケットもオフされている狡噛さんが迫ってくる。色気が凄まじい。…いや狡噛さんの官舎だよね、当たり前って当たり前なんだろうけど、っていうか着やせなんですか? 思ったよりも筋肉がもりもりなんですけど、あの、えっと、あの!?

「~~っごめんなさい出来心だったんですだって何徹したと思ってるんですか…!」
「こっちもだ、そしてそれ即ち、その日数抜けていないということだ」
「っ抜け!?いつもの人としてくださいごめんなさい許してください今度外出申請三回くらい請け負いますから」
「いつもの人ってなんだ、言葉のままだよ」
「っそんなこと素直に仰ってくださらなくて結構です…」

 …狡噛さんも一人でするらしい、彼は、今日は私に跨って肩口に手を置いている。私はと言えば彼の肩をやんわりと押し返そうとはしたが硬すぎてやる気が失せた。正直な私は胸筋に手を滑らせ押し返すふりをしているが全くしていない。にしても気まぐれなんですか、なんでもいいですけど恥ずかしいですよなんなんですか!?あげくの果てになんでそんなことを自己申告するんですか恥ずかしいですよなんなんですか…。ちょっとお尻揉ませてもらっちゃっただけじゃないですか胸筋も触ったし背中も触ったし頬も合わせたしちょっとざりざりしていなかったことはないけどええそうですよ好きですけど!でも狡噛さんだってしたしお相子なんじゃないですか。

「お前てっきり、あんなことしてくるから慣れてるのかと思ったが」
「…初心なわけではないでしょうけど慣れてるわけでもないですし、狡噛さんはちょっと、…胸筋が優しくてかっこいいので恥ずかしいやら申し訳ないやら私では」
「俺も結構お前の尻好きだけどな。キュッと上がってて。だが胸もいい、というかお前が――いや、さっきのどっちがいいかという問いだが、直接触らない事には判断できない」
「そうですか、どうも、おやすみなさい…」

 彼の背中に手を回して胸筋に頭をなすりつけてねんねしようと思ったのに狡噛さんは全く体制を崩してくれなかった。私は狡噛さんのことをずっと筋肉マンと思っていたけど、ゴリラか何かに改名した方がいいかもしれない。

「寝てる相手を犯すのは好きじゃない」
「っ好きじゃないってしたことあるんですか!?」
「したことない、したくない。起きろ」

 不機嫌そうな声で恐ろしい言葉が落ちてきたのでばっちり目を開けるとジト目で私を射抜いている彼は何か凄い顔をしている。それに狡噛さんのこの言い草というか言動というか、ついでに私の意識が混乱していなくはないことも鑑みると、いや、狡噛さんに押し倒されていて混乱しているのかは分からない、混乱しないわけない、いや分からないけど、とにかく彼の目の下にはおっそろしいほどにクマが存在していたので、あの。

「…待ってください、何かよく寝た気分で私起きましたけど、もしかして狡噛さん寝てない?」
「…察しの通りだ。まだ一時間も経ってない。いっそのこともっと寝ててくれればよかったんだが」
「本当にごめんなさい私はちょっとすっきりしましたよ、おうちかえれます」
「起き上がったらふらふらしてるに決まってるさ、このまま泊まっていけ。それにお前、そんなに嫌なら触ってくれるな、気を持つだろうが」
「っや、別に嫌なわけじゃないですけど、寝てください狡噛さん、今したら狡噛さんがあとで後悔しますよ、なんで私を抱いたのかって――」
「言わせるな、あんたを抱きたくて寝るに寝れないんだよ」

 かすれた声で落とされた言葉に思考が止まった。狡噛さんは私の頬を撫でている。…ラッキーと思ってしまえば。だって狡噛さんの意識がはっきりしていたら一億と二千年経ってもこんなシチュエーションはやってこないだろうし彼は私を抱くことはないと思う、ので、私を認識して抱いてくれると言うのなら、私だって狡噛さんを抱いてやるくらいの勢いで好きなので、その。でももうちょっと優しい顔をしてください、ちょっと怖いです。

「…目が血走ってますよ。志恩とかどうですか」
「あんただ。あんたのことが抱きたい」
「~~私は狡噛さんならいいですけど、格好いいなとは思ってましたから」
「あんたも結構可愛いところがあるさ。そうと思ってた相手をその気にさせたんだ、自信持っていいんじゃないか」
「っ最初は本当に出来心で――」

 なし崩し的に落ちてきた唇が私の唇を奪った。


***


「…狡噛さん?」
「…ん、もう少し寝かせてくれ……」

 ふと意識が浮上して、素肌が触れ合う感触がした。……素肌? 待って?服着てない?気がする。 っえ、どこからどこまで夢だった?待って?っま?ま?っえ!?

「……!?」
「っはい、!?」
「待ってくれ、待、っは?なんでここにいる?」
「分かんないです、あの、えっと、」

 バッと上半身を起き上がらせた狡噛さん、から毛布を奪い取って私は寝転がったまま胸元を隠している。しかし私の顔を見て、見直して、ぎょっとした顔をして手を伸ばして来た狡噛さんが、私の髪をよけて首筋に触れた。どうしようこの温度は覚えている、彼の手が優しく私の体を這いまわっていたことも思い出して来た。自律神経が生きているらしく羞恥にあわせて正常に頬が熱くなる。待って恥ずかしい。次いでその手はがっと私の肩を掴んで、掴まれたその部分を見たら、彼の指の隙間から赤い痕が見えた。…首にもついているんだろう。確かに散々ちゅっちゅされた覚えはある、けど、いいよ、私も、その、多分、したし…。狡噛さんの顔を見たら、顔面蒼白、という言葉が非常にしっくりくるような珍しい顔、から視線を少し下にずらして、上半身裸な胸元にもやっぱり同じような赤い痕が見えた。…あああ。更に下は…いや見ないでおこう。それにしても内臓とまではいかないけれど、腰に違和感がある、普段使わない筋肉が筋肉痛を訴えてきている。結論は出ているが焦っていないとは言ってない。

「なあ、もしかして俺は、あんたのことを手酷く抱いたんじゃないのか」
「っや全然優しかったです、でもやっぱり抱いたんですか、抱かれたんですか、どこからどこまでが夢ですか」
「――責任はとる、すまない。いや、謝って許されることではない」
「謝らないでくださいよ何か逆に悲しいじゃないですか、いいですよ狡噛さんなら別に。けど、あの、ゴミ箱を拝見したくですね…」

 あああと頭を掻きむしりそうな狡噛さんが私の肩から手を離して反対の岸に存在していたんだろうゴミ箱を手を伸ばしただけで取って私の眼前に突き出してくれた。この人は腕も長いらしい。大変プロポーションがいい。知ってた、…昨日。とにかくとりあえずそこにはちゃんと使用済み避妊具が入っていたのでほら大丈夫問題ないし私は全く以って同意した記憶があるし心情的にも彼のことが前から好きいやあの格好いいと思っているので大丈夫です。

「ほら大丈夫ですあと私の記憶の中では合意です」
「いやだが――」
「狡噛さん、私は何か狡噛さんのお尻を揉んでいた記憶があるんですけどあれは現実でしょうか」
「……俺もその覚えはあるが、今はそうではなくだな、」
「まず事実確認をするべきですよ、とにかく私が狡噛さんのお尻を揉んだのは事実なんじゃないですか」
「…現実だろう。その時どこに居た?」
「オフィスで報告書を書いてたんですよ」
「そうだ。その時に正気じゃなかったとは思えん、……全部現実か」
「……二度寝します?」
「バカ、覚めるわけないだろう」
「……そんなに思い悩んでくれなくていいですよ、別に。覚えてるか分かりませんからもう一度言いますけど、狡噛さんのことは格好いいと思ってたので」
「……俺だって女だというだけで抱いたりしない。だがあんたは監視官だ、色相は」

 初耳にもほどがあるんですけど!?私を抱きたいんだとは言ってくれたけど狡噛さんベッドの中でだってあんまりデレてくれなかったのに!名前で呼んでくれた覚えはあるけど!相当きゅんときてしまったけどっていうか色相?がなんですって?デバイス画面を突き出してやる。

「格好いいと思ってた人に抱かれてどうして濁るんですか濁るわけないでしょういつも通り快晴ですよほら」
「…それならいいんだが」
「あなたがどうしたって私を濁らすことは出来ません。心配いりません」
「……そうか」

 目を丸くさせてからはにかんだ狡噛さんの表情は初めて見た。…こんな顔するんだ。不意打ちを食らった。私は凄くときめいてしまった。格好よすぎて可愛すぎる。それにしても正しく意味が伝わったらしい。…恥ずかしい。

「っていや、それとこれとは別だろう、何も解決していない。、どう詫びたらいい」
「…じゃあ昨日みたいに名前で呼んでください。あと一人でするくらいなら次も私としてください」
「……それじゃ詫びにならないだろうが」

 微妙な顔をして少し目元を赤くした狡噛さんの腕を引っ掴んで布団の中に引き入れる。恥ずかしい。顔を合わせにくい。次はちゃんと覚醒している時にうんと優しくしてもらおう。昨日みたいに激しいのも嫌いじゃないけど。…とにかく二度寝だ二度寝。

「二度寝しましょう。詫びなくて大丈夫ですよ、夢でも現実でも気持ちは変わりませんから。…次起きたらまた確かめてみてください」

寝ても覚めても