「狡噛さんって、真夏のクリームソーダみたいなところありますよね、青いやつ。スカッと爽やか中身は無くてすぐ溶けて混ざって残念なことになって最初にサーブされた時のあの嬉しい印象からは考えられない」
「………抽象的に俺を侮辱しているのか?」
「あなたがそう思うのならそうなんでしょう」
狡噛さんは全く以ってふと思ったその例え通りの人だ。最初はなんてこの人は優しくてかっこよくて思慮深くて周りのことを見ている優しい人なんだろう、って思ったけど、蓋を開けてみれば、その毒を周囲に浸透させて自分勝手に好き勝手周りのことも気にせずに突っ走っていく俺様唐変木だった。少しは恥ずかし気のあるところでも見せてくれたらいい。きっとその顔は最高に可愛くて私が死ぬまで持っておきたい脳内記憶フォルダの大事な一枚になることだろう。
「お前やたらと回り道に嫌味を言うくせに、どうして濁らないんだ」
「さあ。神にも分からないんですよ」
意味がわからんという様子に彼は頭を抱えている。私はよっぽど彼が羨ましい。信頼できる人間も沢山いて、沢山それをもらっているというのに、この人は素直じゃないんだろう。
「お前と話すと疲れる…」
「疲れている狡噛さん、あとで部屋に行きますから入れてくださいね、労ってあげます」
「……勝手にしろ」
彼は珍しくも虫けらを見るようにな些か冷たい視線で私を眺めて踵を返した。言動が正反対じゃないか。
*
「――狡噛さん?」
部屋に入ったが見渡しても誰も居なくて、また心が引き篭もりモードなのか、と廊下に戻って左手側の扉を開けた。鍵は開いていた。その書斎のソファに座り込んでいる横顔がこちらを向いて、瞳には影が差していた。狡噛さんは矛盾している。
「労ってくれるんだって?お前が俺を?どうやって」
「分かってるくせに」
デバイスを操作して部屋でもロックしているんだろう彼の隣に無理矢理座り込むが、全く席を開けてくれない。仕方がないのでそのまま横を向いて彼の脚に膝裏を乗せた。彼の頬を手で包んでみると、狡噛さんの顔がヘンなものへと変わっていく。違う、私が見たいのはそういう顔じゃない。
「…なんだ」
「甘えたですね。好きですよ」
手を彼の首裏に回してぐっと引き寄せようとしたが、梃子でも動かない気らしい。ひどいな、女性に主導権を握ってほしい気分なんだろうか。仕方ないので向き合って、彼の脚に跨り座ってべったり引っ付いてぎゅっと抱き締めてやる。頭を撫でてあやしていると、彼がゆっくり私を引き剥がした。その頬には少し赤みがさしていて、なんだよ、と言う顔をしていた。可愛い、と言うのも変だけど、やっぱり可愛い。何か満たされた気持ちになってしまう。この人が私にしてやられている感覚、感情。私はそういう顔が見たいのだ。
「お前のことはさっぱりだ」
予防線ばっかり張る嘘つきめ。彼は私の唇を塞いで、私は彼のシャツのボタンをあけていく。ネクタイがうまく解けなくててこずっていたら、いとも簡単にそれに手をひっかけて彼はうまいことしゅるり、とそれを外した。再度唇を合わせて深いキスを求め求められて、狡噛さんが私を押し倒して遠慮なしに上に跨ってきて、彼の分厚い舌が器用に私の舌をさらって犯してくるのにうっとりする。普段不器用なところがあるくせに、こういうことは素直で器用なのか、彼は。はあ、と口を離したら、気付けば私の手首は縛られ頭上に上げられていた。
「ちょっと、労るっていったじゃないですか、解いてください」
「慰めてくれ」
彼が私のシャツのボタンをあけていって、ちゅっと肌をきつく吸って独占欲を露わにしている。変な狡噛さん。
妬心