疲れた。大変疲れた。地方で事件が起きてなんかよくわかんないからって数週間ほど駆り出されていて大変だった。出張。お土産は大きい箱で買ってきた。自宅用には珍しい食材とかなんとかかんとか色々買ってしまった。まあお金を使うあてもないし、よいのだ。田舎の風景も自然もいいものだったし、いつかは慎也くんと旅行にでも行きたいな。まあ、刑事課は人手不足のブラック労働タイムなところあるのでお察しください。でもいつか絶対一緒に行くんだからね。さて、とりあえず犯人は執行できたし関係者も全員捕縛できたのでよろしいことにする。あとは私の仕事じゃない!おうちかえるー!!!!
長い移動時間を超えて、いやまあほぼ寝てたんだけど。玄関を開けて少し散らかっている家をひたすら無心に片付けて片付けて片付ける。慎也くん片づけ得意な方じゃないし。かわいい。他の事はほとんど完璧なのに。いやでも変に鈍感だったり鈍かったり気付かなかったり……よく振り向いてくれたとは思う。でもだって好きだったんだもん。好きなんだもん。テーブルの上に置いてあるマグカップの底には茶色い輪が出来てる。慌てて行ったのかな。かわいい。といっても洗うのは面倒くさいので水を張ってシンクに置いておく。別に片づけなくてもいいんだけれど、私がやりたいだけである。
声が聴きたい、電話していいか、とか。こちらを気遣ってからコールしてくれるところ。起きたとかおやすみとか言ってくれるとこも。でも後半戦では私、犯人確保に必死だったので全然お返事できませんでした。私の最後の連絡、今から帰ります5時間前。その一つ前の連絡、無事です、6時間前。その更に一つ前の連絡、忙しくなるから連絡できなくなりそうごめん、一週間前。ひどすぎる。でもだって連絡を絶った方が楽かもしれなかった、彼の優しさに触れる度に恋しくなってしまったから。確かにその後半一週間ほどはあんまり恋しくなかった。忙しかっただけともいう。それでもふと彼の腕に抱かれたいと胸をかきむしりたくなるほど恋しくなることは多々あった。それは恋しかったって言うんです。あうち。ああ早く慎也くん帰ってこないかな。家ががらんどうでちょっと寂しい。
ソファにかけられてたり、色々散らかってる服を片付けて洗濯機を回して、まあほら、床掃除はドローンルンバさんに任せておく。彼の服はドローンにだって触らせないんだからね。いや、そんなことはないんだけど、なんかこう、あの、抱えたら彼の匂いがしたから、だきしめて嗅いでしまったのは内緒である。ほら、シャツだから!シャツ!セーフセーフ!
ベランダを開けて、プランターに水をやって、いい感じに熟していた苺さんたちをちょいと拝借する。雑賀教授に頂いた苗は大変元気で素晴らしい。お皿を出して、入れる前に洗って一粒つまんでみる。美味しい……。すばらしい!甘い!いい香り!大変よろしい!お皿に乗せた数粒をテーブルの上に置いて、しかしまだそのソファに座ってはいけない。だから、そうだ、シャワー入ろう。と、入ったんですけど、シャワーが慎也くん位置に固定してあって取るのに苦労した。
きちんと閉められていないチェストからもこもこパジャマを取り出し装備して、準備は万全だ。私は二桁の時間寝る自信がある。しかし、お気に入りのふかふかソファに座ってクッションを抱き締めている。ふかふかだ。嬉しい。なんかだって寝室に行ったら即死寝そうな気がした。いや、大人しく寝たら?と思うけど思うけど思うけどもうすぐ慎也くん帰ってくると思うから。でもだめだ、座ってられないので、力尽きて横になってしまっている。だって私は自由である。しばらく。報告書?なにそれおいしいの?
慎也くんに会いたい、触れたい。や、でも私の事嫌いになってたらどうしよう。いやそもそも、まだ好きでいてくれてるかな大丈夫かな。でも多分、その、好きでいてくれてると思うし、思う。…毎日連絡来てたし。……恥ずかしいなもう!私は何を自爆してるんだろう。…でも慎也くんかっこいいしかわいいし優しいし誰かにちょっかいかけられてたらどうしよう。慎也くんがそう思ってなくても、そう思えてしまうような挙動することあるし、慎也くん。昔、もうちょっと気を付けてよって拗ねてみた時、すまないっておどおどしてたけど、以後気を付けると言った顔はにやにやしてて全然気を付ける人の顔じゃなかった。私は必死なんだよと悔しくなって詰め寄ったら、の嫉妬が嬉しくて、と言われたことを私はずっと忘れないと思う。なんかこう、色々バカみたいに思えた。でも、でも、でもでもでも、慎也くんはそう思ってなくても周りは敵だらけなんだよ、みんな慎也くんのこと好きだよ!?慎也くんも気を付けてくれてたけど、しばらくしたらやっぱり戻ってたし。分かってやってる時もあるくせに、基本的な無意識たらしやめてほしい!慎也くんのバカ!私はこんなに好きなのに!
わーんごろごろごろとしたかったけれど、ごろごろする気力もスペースもソファにはないのでひたすら仰向けで八つ当たりのようにクッションを抱き締める人になっていた。テーブルの上に腕を伸ばして苺をつまむ。目を瞑っているので繊細なところまで味がわかる、甘くて美味しい、いい感じ、しかし寝そう、やばい、慎也くんに家ついたって連絡してないな、と既に閉じている目を開けようと頑張って頑張って頑張って頑張れ(むり)。ガチャリ、と耳が音を捉えた。わーい嬉しいおかえりおかえりおかえり、多分彼だろう。いや彼じゃなかったら不審者になっちゃう、怖いよ。死んでしまう。いや思考が死んで来ている。眠いらしい。でも彼の顔を一番に見たい。頑張って眼を開けた。ガタガタ聞こえて扉があいて、顔を出した彼の表情が、瞬間綻んだ。
「!」
半ば突撃してきた彼は私に覆いかぶさって、おかえり、とぎゅうぎゅう私を抱き締めた。身体をよじって間に挟まってしまった邪魔なクッションを隙間からぐっばいして、かたい彼の身体を抱き締め返した。あったかい、彼の匂いがする、彼の髪が私の首に触れる。肩口に顔を埋めている彼は、ぐりぐりと私に頭をこすりつけている。
「ただいま」
「怪我はないのか?」
「ん、大丈夫。慎也くんも元気だった?」
「……元気じゃなかった」
「…えっ?!」
「違う。…お前がいないから元気じゃなかったって意味だ」
「へ、」
顔を離した彼が薄く口を開いて、その分厚い唇が開いたままだった私の口を塞いだ。私だって寂しかった。寂しかった、けど、いきなりぬるりと入ってきた舌の感触にぞくりと背筋が震えて頬に熱がのぼってくる。舌を絡めあうも、久しぶりでどうしてたか忘れ気味でたどたどしくなってしまうし、いやらしい水音は耳に入ってくるし、…なんだかいつもの数倍数百倍恥ずかしくて、行き場のない思いで肩を押し返せば殊更深く貪られて、薄目を開けたら眉根を寄せて目を閉じている彼の顔がかっこよすぎてどうしたらいいかわからないし、ちょっと刺激が強すぎる。ついでに少し赤く染まっている目尻のせいでちょっと不健全だった。
「苺の味がする」
「っ恥ずかしいこと言わないで…」
「俺は甘いものはこれと言って好きなわけじゃないが、お前だけは別だ」
「……~~っ、慎也くんは甘くないもん。私にとってはいつもレモン味だからね」
「レモン味?どういうことだ?」
目をぱちくりさせた慎也くんは続きを催促している。かわいい。しかし知らなかったとは。自分で墓穴を掘ってしまった気分。仕方ない言ってしまえ。事実だもん。私慎也くん大好きだもん。だからきっと問題ない。…問題しかない気もするけど。
「初恋はレモン味っていうのがあってね、その、いつも慎也くんに恋してるって言いたかったの!」
言葉に詰まった彼は私の胸に顔を埋めて、私を抱き締めている腕には力がこもった。ちょっと苦しいくらいに。でも嬉しい。顔を直視したくはないしされたくもないのでまだ助かったと思っていたら、直ぐに顔をあげた彼は面白いほど、にやついていて。
「知ってる。言わせたかったんだ」
はにかむ慎也くんはひどい。けど。好きだ、と囁く彼のことが、私も好き、ひどく好き。伝えて、かたく抱き締めあって、混ざりあう体温が心地よくて、どんどん眠くなってくる。愛してる、という彼の一言で、私は夢に落ちるのだ。
ずっと初恋