わあ、私。最近執行官になったんだけどね、初めてエリミネーター撃っちゃった。きゃー技術すごーいとはしゃぎまわる心反面、イカすぜかっこよすぎぃとドミネーターの変形に拍手喝采な心反面、他人の血しぶきを全身に浴びて単純に気持ち悪い怒り反面、人の命を奪った心反面、血の臭いが体の奥に染み込んだような気分反面、わあ。

 一徹

 気晴らしのために秀星に借りたゲームがあんまり面白かったので遊んでいたら夜が明けていた。どうしてなんだろう。理不尽だ。シビュラが万能だっていうなら時さえも止めてほしい。全身義体になれば解決するか。一考かもしれない。
 うむ、休止状態になりそうな頭のためにアドレナリンが必要である。オフィスを出て、ドリンクサーバーの前で頭を悩ませる。モンスターブルとレッドエナジーとコミッサちゃんドリンクにコーラ入れて混ぜたら爆発しないかな、おいしいかな?
 絶対ないな、それだけは分かる。とりあえずこの眠気を何とかしなければいけないので、冷静な判断でモンスターブルとレッドエナジーを選択し、口の中で両方混ぜて飲んでみた私は声にならない声をあげて膝から崩れ落ちた。よかった、やはり口の中で混ぜて味見した私は天才だ。不幸中の幸いだ!
「……お前、結構バカだよな」
 背後から頭の上に憐れみしか含んでいない低い声が降ってきた。この低い声は一係のベテラン執行官の狡噛さんのものである。たまに秀星の部屋で三人でゲームをするような仲だ。要はちょっと仲良しだ。私は彼のことが好きである。さらっと言ってしまった。いや、本人には言ってない。しかしながら、びきりと私のこめかみに怒りマークが発生せざるをえない発言をされた。
「どこから見てたんですか」
「サーバーの前をウロウロしてるところからだ」
「……一本助けてください」
 それ最初からっていうんですよ。それにしても2本飲みきる気力は完全に無くなってしまったのでラッキーである、いやにポジティブだ。睡眠不足が人を幸せにする可能性について考えよう。
 それを一本ずつ持っている両手を上にあげれば、「まあ、たまにはいいか。もらっとくとするよ」片手のそれがするりと攫われていった。 

 二徹

 どうしてこうなってしまったんだろう。昨日宿舎に帰って熱いシャワーを浴びたら変に目が冴えてしまったのでゲーム機を手に取ったところまでは覚えている。
 だってストレスがたまっていた。例の報告書がなってないと再提出を200万回リクエストするうちの監視官が悪い。頭ぐるぐるのまま300万回目の報告書をあげた私は正直を決めたかった。
 ありえない。非常にむかつくのでスパーリングドローンを破壊しようと思ってトレーニングルームへ来た。そうさ、300万回目の正直は決められなかったんだよ。
 テキトーに準備運動をして、サンドバッグを蹴り飛ばしたら打撲を負った。許さない。
 更にむかついたので、格闘ドローンのレベルを最高まで上げて起動してみた。なんか恐ろしい音がしている。安全プログラムってちゃんと作動するんだろうか。
 ちょっとよくわからない速さのパンチを死に物狂いで避けたらなんかよく分からないけど私はマットの上に吹っ飛んだ。多分蹴り飛ばされたんだと思う。なんとか受け身取ったけどやばい、痛い。いらいらは吹っ飛んだのでよしとする。
 しかしながら私の上に跨ってきたドローンが拳を構えている。カンカンカンと誰かゴングを鳴らしてほしい。このドローンは私の息の根を止めるまで止まらないんだろうか。えっ止まるよね?と思っていたら本気で風を切る音がしたので、すんでのところで首が折れるほどに回避したけど二足歩行人型ドローンには人間と同じように腕が二本ついているのは周知の事実であり自明の理でありちょちょちょちょちょっと待って、「何やってんだ!」横から大声とともに多分なんかタックルがかまされてそれを吹っ飛ばした低い声のその人が、私の顔を気がかりそうに一瞬一瞥しながらドローンに突っ込んでいった。「早く止めないか!」仰るとおりである。どうやって止めるんだっけ、早くしなきゃ狡噛さんが、わたわたしていると凄まじい音がした。そして静かになった。彼が荒い息を整えている呼吸音だけが響いている。
「……えっと、」
 放心しながらそちらを見ると、恐ろしい戦闘能力を持っていたドローンが彼の後ろで嫌な音を発していた、普通に壊れてる。やばい。
「なんだってこんな無茶したんだ!オプション確認しなかったのか!?」
 ……そんなオプションあったんだ。初めて一人で使ったから全然知らなかった、彼の発言と形相から見るに恐ろしい設定になってたんだろう、狡噛さんが割り込んでくれなかったら恐ろしいことになってたんだろう、それだけが分かる、それ以上は分かりたくない、恐ろしい。やばい。
 こちらへずかずか歩んでくる狡噛さんはなんかすごい怒ってる。
「あの、その、大丈夫ですか?」
「俺は平気だ」
 狡噛さんが無事でよかった、よかったけど、狡噛さんはスパーリングドローンを破壊するというあの噂は本当だったらしい。やばい。
「お前は。怪我はないか」
「えと、はい、横っ腹を蹴られただけで済みました」
「見せてみろ」
 そう言った彼がごく自然な動作で私のトレーニングウェアをたくし上げた。は、え、なに、へ?
「冷やさないとだめだ、医務室行くぞ」
 患部を探るように撫でて、腫れてる、と眉を顰めた狡噛さんが私の脇に手を回しいれて肩を貸すように立ち上がった。彼はめちゃめちゃ猫背になって私を支えているにも関わらず私は爪先が浮きそうなのである。いや。あの。
「自分で歩けますから!」
 本当に平気か、かついでいくか?と提案する彼の脳みそは正常なんだろうか?

 三徹

 大混乱をきめたまま飽和している私の頭に睡眠というものは不要だったので、いつだったか起きたままの延長線上に生きている私のド平和な本日の勤務が終わってしまった。
 今日の私は平和である、何故なら1000万回修正した報告書が受理されたからである。やったね、おめでとう、ありがとう。
 オフィスを這い出て廊下に蹲る。とにかくなんでもどうでも誰でもいいから私に寝られるきっかけをくれ。もう大分目が開かないので、さすがに今日は寝れそうかもしれないけど、ここまで来ると限界に挑戦したくなってきてしまう。だって真っ赤に染まったままで形状記憶をしている網膜が憎たらしい。でも限界までいったら気絶して終わるはずじゃないか。いいや、人間は気力だろう、私は耐え抜いて見せる!頑張って立ち上がるのだ!私は帰ってゲームの続きをするのだ! そして襲い来る立ちくらみ。
 ふらふらするのでずりずりと壁伝いに歩みを進めて30分はかたい。4時間ぐらい経ったんじゃないだろうか、嘘です5分かもしれない、ちょっとよくわからない、頭がぐるぐるしている。

 幻聴か?または合成音声か。目を開けようとするが無理だったので、2秒で諦める。でも口は動きそう。仕方ないよね、視覚情報ほど脳のスペックが割かれるものってないもの。ついでに目って脳の一部なんだって?視神経ってぶっといもんね。露出している脳みそ?ホラーかな。そういう話をいつだか志恩がしていた気がする。
「おい、
「狡噛さんの幻聴が聞こえる…」
「本物だ。お前、エレベーター通り越してるぞ」
「えっ」
 目が開いて、左手側に存在しただろうそれを確認しようとばっと振り向いた。明るさに目がくらんだ中で狡噛さんの顔が一瞬見えた。即座に目が閉じられついでに突然の動きに三半規管がバグった。わーと力ない声が出ながら前にこけることを覚悟したら彼が受け止めてくれたらしかった。煙草くさいシャツと筋肉胸筋が私を受け止めた。そのまま狡噛さんは私の腰を支えて、ずるずると引っ張って、いや私はそのままくっついたままなんだけど、エレベーターに乗せてくれた。なんなんだろう狡噛さんお人好しなのかな。腕が離れていかないので多分彼も上がりなんだろう。彼の体温が心地よくて安心する、意識が落ちるのにコンマ1秒も必要なさそうなくらい。
「……狡噛さん、あったかい」
「そうか」

***

「おい、着いたぞ」
 エレベーターの中で意識を飛ばしたを横抱きにして運び、彼女の部屋の前に降ろしてやって、身体を支える。
「あれ、ついに人間ってワープできるようになったんですか……」
 さっき私エレベーターにいた気がする…と目を開けることを完全に放棄している彼女の瞼を無理やりこじ開ける。認証が下りないだろうが。「んん~~」唸って抵抗する彼女の腕にはまるで力がこもっていない。その手も取って指紋も認証させてやる。
 有事が起きたら一体どうするつもりでいるのか、何を考えてるんだこいつは。こないだはスパーリングドローンにタコ殴りにされそうになっていたし、危険予測能力あたりが著しく欠如している。危なっかしくて目が離せないのは事実だ。
 扉が開いたので、扉を足で固定しながら彼女を部屋に入れてやれば、案の定その場で丸まって力尽きてしまった、が、「寝たいです…」仕方がないので観念して俺も入室する。
 彼女を再度横抱きにして、適当に扉を開けて、寝室を引き当てた。むせ返るような彼女の匂いに情欲が顔を出し始める。こういう時、男は素直でいけない。彼女をベッドの上に降ろすも、首に回った腕が離れて行かず、勘弁してくれ、と思った。欲を持て余すことになるのは目に見えている。それに、ただ彼女が心配だということも事実だ。
「ほら、離れろ」
 彼女の腕をほどいて退室しようと離れると、その腕が空を切って俺を探し求めては、彼女が這いずり進むことを繰り返し、ベッドの縁に手がかかった。次に何が起こるかなぞ想像に容易い、慌てて戻る羽目になった俺は間一髪で間に合い、「あ」彼女が擦れた間抜けな声をあげて俺の腕の中に頭から落ちてきた。反射的に、衝撃を和らげようと背中から床についてそれを逃がす。
「…行かないで……」
 蚊の鳴くような声で彼女が呟いた。大方あの日エリミネーターでも撃ったんだろう、数日前廊下ですれ違った彼女はひどい顔をしていた。それから睡眠をとることができずに三日三晩は経っているはずだ。複雑な心境で、荒くその頭を撫でつける。
「……ハァ、仕方ないな、今回だけだぞ」
「ん、おやすみなさい」
 人の胸の上でのびたまま寝る気らしい。抱いている彼女の柔らかい身体が規則正しく上下し始める。彼女の髪を梳いて邪念を追いやろうとしていれば、段々と体温が混ざり始めて、俺も起き上がるのが面倒になってきた。ソファで寝るのも慣れてるし、床でも大差ないだろ。このまま睡眠欲に身を任せたほうが楽に済む。たまには俺も惰眠を貪ってみよう、どこまで寝れるか挑戦だ。

***

 意識が浮上した。凄く頭が快晴だ。こんなに清々しい朝、最近あっただろうか。いや、無い。
 布団ってこんなにぽかぽかだったっけ、素晴らしい。起き上がりたくない、しかし起きねばならない。
 目を開けて手をつけば、視界がすごい低かった。ついでにやけに不安定だった、ついた手を見たら、なんか、あの、なに?
 なに?
「起きたのか、おはよう」
 なに?
「お前、よく寝るな。俺は寝疲れた」
 よし分かったぞ、これは夢だ。二度寝しよう。再度倒れ込もうとしたら彼が上半身を起こしてしまった。
「あんなソファでも、まだマシなもんなんだな。床は堪えたよ」
「え、あ、え、ごめんなさい、いや、夢なら大丈夫」
「まだ寝ぼけてんのか」
 現実だ、と私の頬をゆるく引っ張った彼の指の感触が生々しくて一気に頬に熱がのぼった。何がどうしてこうなったのか記憶を引っ張り出すためのメモリが足りてない。容量をオーバーしている。
「あの、え、狡噛さん?」
「なんだ」
 くぁ、と口に手をやった彼が欠伸をする。狡噛さんはこんなホイホイ女性の部屋を訪れるんだろうか。男の人がそういうことしたらいけないと思う、いけないと思う。狡噛さんかっこいいし、まずいと思う。
「言っておくが、お前が俺を離さなかったんだぞ」
「えええご迷惑を……」
「別に迷惑じゃなかったさ。もう大丈夫そうか?」
 大丈夫、なんだろうか。分からない。今日の夜また眠れなくなっているかもしれないし、寝られるのかもしれない。けど狡噛さんと居るのは安心するから、離したくなかった。
「…またダメになったらお願いしてもいいですか、その代わり、狡噛さんがベッドで寝たくなった時に来ていいですよ」
「……お前、もう少し考えて物を言え。そんな簡単に男に口実を与えるな」
「む、そこまでバカじゃないです」
 視界は彼の黒に塗り潰されていて随分心地が良かった。しわくちゃになっている彼のシャツに額を付けて、ひどく熱い顔を見られない様に誤魔化す。
「…たまにだからな」

All Nighteres