そんなきれいな瞳をしてると汚してしまいたくなる。というのも冗談で頗る本当。その瞳がきれいであればあるほど、私を見ればそれだけ汚れていってしまうだろうって、けどこっちを見ていたら嬉しいの、最悪だ。死んだら忘れて欲しい。あなたが与える一匙の猛毒を食らったうちに死んでしまえたら幸せだろう。バカじゃないの。

隣に股かっぴろげて座っているバカ山、局部蹴り飛ばされ待ちなの? は、何やってんだかという視線を寄越してポケットから出したライターを机の上に置いた。それを横目にざまあみろと思った。彼はまだポケットを漁っているが出てこない、タバコを切らしたらしかったから。机に顎を乗せて、死んだ顔であ゛ーと呻いている。

もらってきた紙に、ペンを持って、ひらがなをかいて、あ、ああ死にたいな、い、意味もなく生きてる、う、嘘、ダウト、え、えもいえぬ絶望感、お、おむすびころりん。かきくけこさしすせそ以後続く。もはや後半は殴り書きで、ん、まで。最後に鳥居ってものをかいてミッションコンプリート。井かよ。実際は廃頽的な美しさのある建造物なんだよね、過去には宗教的な意味合いがあったそうな。くぐってみたら別世界が広がってないかなんて夢は広がるが。

数十分前、「怒られんぞ」忠告する佐々山の言葉を無視して宜野座監視官の机からパチってきた古めかしいコイン。を、その紙の上に乗せて指を置く。「佐々山も同じようにしてみて」煙草一本差し出して、軽々と雇われた彼がそれを咥えて顎を突き出す。「早くつけろよ」面倒くさいな、自分でやれよ。「背中に火つけちゃうかも」机の上に置かれていた彼のライターで脅しながら煙草に火をつけてやる。はじめよう。

「こっくりさん、こっくりさん、どうぞおいでください。もしおいでになられましたら“はい”へお進みください」
「相変わらず頭沸いてんなぁお前」
「ちょっと指耐えてないでついてきてよ、はいって動かすの」
「は、い、と?お次は?」
「こっくりさんこっくりさん、私はどうして私なんですか?」
「アホみてえな遊びだな」
「本当は心霊現象かなんかっていうので動く、こっくりさんっていうんだったらしい、旧時代の小説にあった」
「本の虫か」

佐々山が呆気なく指を離して私の頭を小突いた。答えろよ。っていうかそんなわけないし大して読んでない。頭にも入ってない。ただ虚無を抱いたこの生活の中で色々なものを紛らわすために本に没頭することがあるだけで、まあ段々現実との区別はつかなくなってきたけど。

「冗談は置いといて、私は本当に狡噛監視官の担当から外れたいんだけど、どうしたらいいと思う」
「脱走でもしてみたら」
「ふ、ざ、け、て、る」
「お、ま、え、が、な」

ぎぎぎ、と指先でコインを取り合っていると向こうから渦中の二名がやってきた。ちょっとからかってやろう。

「何遊んでるんだ、仕事に戻れ」
「っるっせーな狡噛、休憩中だ、俺は」
「う、ら、ぎ、っ、た、な」
!俺のコインを盗んだのはお前か!返せ!」

まあまあ、と宜野座監視官を落ち着かせて、立ち上がって私から右手側の椅子を引いたら、そこに着席された。単純かよ。席に着いた彼らに概要を説明してやる。対面に座った狡噛監視官、近いのか顔が見えるのかの二択どっちも嫌だな、しかし私はまだ仕事に戻りたくない。左手側にいる佐々山。右手側には宜野座監視官が座ってメガネをくいっとしながら聞いている。うける。イケメンは何やってもイケメンってか。

「こうやって動くんですって。こっくりさんこっくりさん、佐々山はあほですか? は、い」
「お、ま、え、も、な」

似たような語彙しかないのか? むかっときたので佐々山の足を机の下で踏みつけた。「いっ」狡噛監視官が声を上げた。足長族かよ。なんで対面に座ってるあなた様の足がそこにあるんですか。「佐々山だと思ったんですごめんなさい、仕返しに私の足も踏みつけてくださいどうぞ」指先でコインを押さえそれを凝視したまま無表情で発言する。「いや、いい…」些か哀しげな声色を落としてから、「ともあれ、本当なら面白そうだ」と早くもそれを忘れ去ったらしくコインに指を置いてジョインする。色相が濁らないコツは鳥のように嫌なことは早く忘れ去ることのようだ、今日の私は一つ学んだ。から今日を終わりたくなった。もう寝て起きたら鳥居の向こうにいれたらいい。鳥だけに。あほくさ。

「ギノ先生もやろうぜ」
「そんな色相が濁りそうなこと、俺がやると思うか。遠慮しておく」

でも見てるんだ。我々三人の胸中が一致した瞬間だっただろう。こっくりさんが動かなくたって分かる。

「折角だから狡噛監視官、何か質問してみたらどうですか」
「そうだな……、こっくりさんこっくりさん、どうやったらこいつらが真面目に仕事をするようになりますか?」
「「む、り」」

すごい、本当に動くんだな…と感心している彼は、私と佐々山の心がスムーズに合っただけ、ということが分からないらしい。旧時代だってこんなもの本当に動くものか、まさに佐々山が言った通りアホくさい遊びだろう。

「次俺だな、こっくりさんこっくりさん、は狡噛が好きですよ」

私のき、にいこうとする指と、す、の段から通り過ぎないよう力を込める佐々山と、本当にコインの上に優しく指を置いているだけでおそらく困惑しているんだろう狡噛監視官の図が起きている。くそ、負けそう、指力には自信があったのに、ということで、「こっくりさんの怒りを買ったようです」反対の手で端から紙を破り捨てて宣告する。

「本日こっくりさんがあなたの枕元に伺うでしょう、死神としてお迎えに」

いや、全然知らないけど。
なんて恐ろしいゲームなんだ、参加しなくてよかったと震え上がる宜野座監視官と、起きてたら話せるだろうか、と好奇心が勝っている狡噛監視官、こっくりさんが美人なら大歓迎と語尾にハートをつけるバカ山。バカはどこまでいってもバカだ。

は質問したいことは無かったのか?」
「存在意義について」
「疎いピヨ噛くんには意味が難しいんじゃないのか」

律儀に狡噛監視官が私に問うた。シビュラっ子の宜野座監視官が「シビュラが執行官としてお前を必要としているだろう」ぼけた回答をする。別にシビュラに必要されてたって嬉しくない、そういう意味じゃない、佐々山はうるさい、むかつくからそのでろでろネクタイを引っ張る。「おお、積極的」と喜ぶ佐々山、お前、アイロンかけるかクリーニング出せよ、ほんと…。だから彼女いないんじゃないの、絶対的に理由の一つにはある。顔は悪くないのに。

「俺にはが必要だが」

狡噛監視官の発言にびしりと私の身体が固まった。佐々山はわなわなと震えている。やめろ、笑うな。ネクタイを更にぐいっと引っ張って、カエルが潰れたような声を出して思ったよりも近くに来た顔に双方吃驚した。それを席を立った狡噛監視官が割り行って引き剥がした、して、「ネクタイを引っ張られるのは女性が思っているより苦しい」と付け加えた。ぶふ、と佐々山が吹き出した声が聞こえた。いったい誰に引っ張られたことがあるんだ、ずるい、と思って狡噛監視官の顔を見てしまった、わりと至近距離で目があった。やっぱり綺麗だった。ホント嫌。それから謎に、「体験するのが一番早い」とネクタイをしゅるりと取った彼がさらに接近してきて、私の首元にそれを回している。意味わかんない。

一番天然なこの人にいつも私は振り回されている。今日こっくりさんが私を連れて行ってくれたら幸せに幕を閉じられるだろう。嘘。私の首を掻き切るのもあなたがいい、私を撃つのもあなたがいい、私はあなたの所持する命の数の一つだ、既にその毒は効いている。

狡噛さんが私に付けたその首輪を引っ張った。思ったより首の後ろが張るものだ。苦しくないと言ったら嘘になる。でも嬉しい。バカじゃないの。思う存分使い倒して使えなくなったら殺してね、この手は離さないままに。

天狐