いい感じ、といえど結構なサイズのこたつにうつ伏せになって、いえ、何しろ隣を陣取ってくるゴリラが大きいものですから、もとい恋人。でもひっついているのはあったかくていい。話が逸れました。だから、結構なお値段がした本物のみかんをむいて一房たべてみる。甘さと適度な酸味。とてもおいしい。

「クリスマスには餅食べておこたでみかんでお雑煮だ」
「俺もその旧時代の歌は聞いたことがある、が、色々おかしい」

そもそもお正月だ、と彼の気の抜けた目線とぶつかる。そのうち日付をまたぐような時間だ。みかんはとても美味しいんだけど私はすでに眠気にやられ気味で舟をこいでいる。このままうとうと眠ってしまったら、みかんを無限に食べる夢でも見れないだろうか。
餅もみかんもお雑煮も今日では廃れてしまった、ハイパーオーツでそれっぽいものはある、けど、今年は奮発して本物のお餅やみかんを購入したのである。しかしながらお雑煮。けれど征陸さんは知っている、ということは縢くんあたりが再現できるということだ。と勝手に決めつけた私は明日が楽しみである。監視官命令を受けた彼らは今頃ヒィヒィいいながらそれを作っているに違いない。多分。休暇もらったイェー!って呑んだくれてなければ。ちゃんと作ってくれたらご褒美みかんが待ってるから頑張ってほしい。お願い頼むよろしくね。テレパシーを送っておく。届くとは言ってない。

「なにかこう、お正月っぽいことしたいなぁ」
「独楽回し、凧揚げ、羽根突き、あたりは聞いたことがあるな」
「ああ、なんか聞いたことある、けど慎也くん、寝正月って言葉は知ってる?」
「お前が何かしたいと言ったんだろうが」

くすくす笑う私の頭を小突く彼の手をつかまえて、頭をなすりつけながら、えへへってごろんと寄りかかる。彼も彼で私の隣にうつ伏せに伸びているのだった。私の食べかけのみかんに手を伸ばしたんだろう彼が「うまいな」とごちた。味覚音痴でもみかんのおいしさはわかるらしい。
年を越すまで起きていたい気もするし、ただ西暦が変わるだけじゃないかって思いも混在する。理不尽だ。しかしそもそもシビュラはそういうイベントを推奨せずに淘汰したことだけは確りと覚えておかねばならない。ってわざわざ言わなくたって覚えてるよ。それにだからなんだっていうんだ、私は旧時代に美味しいものが沢山あったこと知ってるんだからね、その点だけ激しくシビュラを恨んでいる。かなしい。そしておそらくそのあたりがシビュラに転職を推奨され気味な理由なんだと思われる。私の色相は、監視官保てるけどアンタ本当に監視官?大丈夫?みたいな色の時よくある。つよくいきて。大丈夫、私は辞めないわ、あなたを守るもの。

「慎也くん、わたし寝そう」
「…ある宗教では、煩悩の数は108つと言われていたらしい」
「桁違うんじゃないの…」
「それを一つずつ祓うためにその施設の鐘を突いたんだとさ」

なんだかんだ、彼は私に起きていてほしいのかもしれない。小難しい話を始めてくれた。「除夜の鐘ね」数秒のタイムラグを持ちつつ考えなしに返答した私に「知ってたのか」と感心した風に彼が続けた。頑張って記憶を手繰り寄せる、古語は慣れない、

「新しき 年のはじめに かくしこそ 千歳をかねて 楽しきをつめ」

一息つけば、慎也くんが考え込んだ。千年後の今なんて想像できもしない。昔の人もそうだったのかもしれない。けどきっとこういう風に番い合っていることだけは変わってないに違いない。そうじゃなきゃ私たちもここにいなかっただろうから。彼が私を後ろから抱きしめた。ぬくい。彼が耳元で息を吸った。

「君により 思ひならひぬ 世の中の 人はこれをや 恋といふらむ」
「なっ……」

心地よさでまたうとうとし始めていたのに飛び起きそうになった、飛び起きれなかった勢いで腰をテーブルにぶつけた、痛かった、この人の擦れた声は人を殺す能力があることをこの人はわかってない、全然わかってない。ちょっと目がさめた。犯罪係数上がりそうだし下がりそうだし心が忙しい、ついでにねむい、新手のセラピーなの? なんで突然恋の歌を!

「それ、よく、知らないけど…、私プレイボーイと遊ぶ趣味ないもん」
「歌だけの意味でとってくれ」

出典も人物も歴史も無視しろって、きっと原典には恐ろしいほどの意味が詰まっているに違いない。わかりかねる。溶けた頭で考えろっていわれてもちょっと無理でもある。楽しそうな彼が私の肩を引いて促すから向き直った。そろそろ日付が変わるんだろう。彼はデバイスを確認して直ぐに消して、私の頭を撫でた。明けたぞ、と穏やかな表情をして私を見つめる彼の平穏がどうか続きますように。明けましておめでとう、と返し返されおでこを合わせる時代錯誤の私たちはただ一緒にいたいだけなのである。唇を合わせるだけのキスをした。そんなささやかな、ただの人間の望みがどうか砕かれませんように。

「今年もよろしくね、大好きだよ、おやすみ…」

彼と体温が混ざってどんどん眠くなる、ちゃんと起きていたという達成感、満足感をかみしめながら、瞼が閉じる。聴覚と感覚は依然として生きたまま、彼のおやすみが聞こえなくてややかなしい。彼は私の足をこたつの中でからめとって、妖しい手つきで私の腰を撫で始めた。真意を知るべく頑張って瞼を持ち上げる。いじわるい顔をしていた彼に嫌な予感しかしなかった。もしかしなくても。

「姫始めって言葉は知ってるか」
「やわらかくたいたおこめをたべはじめるひのことです」
「とぼけてられんのも今のうちだ」

正月らしいことがしたいんだろ、と可笑しそうに笑って私に飛び掛かった彼はさすが睡眠時間4時間の男である、どうして眠くないの。私は眠いの!って心の叫びは言葉にもならず、深く合わさった彼の口の中にきえていった。どうやら襲われてしまうらしい。

なんでも幸せ