オレンジ色が好きだった。初めて好きになった人が、そんな色をしてたから。混ざったら何色になるんだろう。彼が消えてしまってから、次に私が染まったのは青色で。仄暗い海の底に夕日が反射しているような。暗い暗い水底へと足を踏み入れたのは、他でもない私だった。
「…悟、」
何重にも帳を張った中に私を置いていった彼が、何日かぶりに部屋に現れたのだ。おかえり、大丈夫、どうしたの。何を言葉にすることも躊躇った。ひどく憔悴しきった様子の彼に、きつく抱き締められたから。傑が消えてしまった時も、同じ顔をしてた。鮮やかに思い出される彼の微笑みにえずいてしまう。どれだけ忘れようとしても、覚えている。偽りだなんて、本当だなんて信じたくないから。
「傑が笑えるような世界に、僕なりの方法で、変えるから」
傍にいて。って言葉も、忘れようとしてる。
人でなしだと思うよ。私は呪術師失格だ。呪いを祓うためでもなく、彼のように弱きを守るためでもなく、誰のためにこんなことをしているわけでもない。擦り切れてしまったのだ。昨日まで一緒に笑っていた人の体温が、今日には無くなっていたり、消えていたりする。皆、こんな風に冷たくなっている。体温が水温と同化していく。私はこの先に、救いを求めている。
傑の唯一無二だった癖に、彼を救ってくれなかった悟。傑のことが好きだった癖に、悟で空白を埋めた私。彼を救えなかった私は。肩まで覆った海に、浜辺を振り返った。空はもう真っ暗で、寂しい灯台の明かりがオレンジ色にぼやけている。
「もう二度と一緒になれないなら、…」
そんな世界、あったってしょうがないのに。生きていたって、しょうがないのに。私が君を超えることだって、ない。
次の六眼が生まれても、それが悟じゃないように。いつか四人で見た映画の記憶も、私が染まった色に狂ってしまった理由も、全て失われてしまう。もう二度と生まれ変わることなんてない。悟が一番分かっているはずだ。
だから願わくば、君を呪わせてね。
波に足が掬われていく。言葉は海中へと溶けて、藻屑と消えることを望む。無色透明に戻りたいの。もう誰も、私を呪わないで。
濁世