もうすぐ虎杖くんの誕生日らしい。来たる3月20日、果たしてどう祝うか……野薔薇と伏黒くんと虎杖くんの誕生日パーティーを計画している最近。私は個人的にはお米とかあげようかな、と思っていた。虎杖くんよく食べるし。自炊できる人だし。お米おいしく炊けるし。
虎杖くんのことは好きだ。優しいし。お世話になってるし。
そういうワケで色んな品種のお米詰め合わセットを買ってみた、この間。その帰り、寮の廊下でだ。冬でも元気一杯な虎杖くんが、私に花を一輪くれたのは。……花を。花。定番の、赤い花。薔薇じゃない方の。思わず歌が思い浮かぶような花。昔のスマッシュヒットだったとかいう歌。その花。
「う~ん……」
部屋の花瓶に活けてみた花はやっぱりその花だ。単純に言えば癒される・普通に可愛い・嬉しい。でも。どういう意味なんだろう。
なんでこの花を選んでくれたの? とても立派に咲き誇っているし可愛くラッピングされてたし、わざわざお花屋さんで買ってくれたんだろうと思う。……しかしだとすると、なんでくれたんだろう。
虎杖くんは知らないかもしれないけど、私、花が好きだから、花言葉だって知ってるし。虎杖くんは知らないかもしれないけど。私はこの花の花言葉を知っている。赤い、スイートピ~♪ なんて気持ち良く歌えそうな感じなのに、これを男性と言わず、人間から対面でもらう意味#とは! 虎杖くんは知らないかもしれないけど。私は深く勘ぐっちゃうんだけど。虎杖くんは知らないかもしれないけど! 虎杖くんが退学するなんて話は聞いてないし、私、そんなに嫌われていたんだろうか。
まあ虎杖くんだし本当に何も知らないのかもしれない。本人も言ってたな、『この花かわいくない?』って。ねえねえと声をかけられて振り向いて、
『。これもらって?』
『なあに? 虎杖くん』
『ジャーン!』
赤いスイートピーと彼の笑顔がそこにあった。しかし、こちらの喜ぶ顔を見たい、というような期待MAXな虎杖くんの笑顔に応えられなかった私。複雑な顔をしてしまっていただろうことは否めない。虎杖くんがどんどん不安そうな子犬みたいな表情になっていったので、本当に私はビミョ~な顔をしていただろう。
『……この花かわいくない?』
『え、あ、えっと……可愛い、んだけど』
『だけど?』
『え、えーと。えーと。くれるの?』
『あ、誤魔化した』
『じゃ、じゃあ返す』
『えーなんで! 気に入んなかった? 花好きじゃない?』
『えっううん、大好き。あ、ありがとう!!?』
そうやって差し出されるままに受け取ったんだった。
――うん。虎杖くんは私が花を好きなことを知っていた。好きでしょ? という意味の好きじゃない? だった。しかし純粋な好意であって深い意味はないのだろう。そうであってほしい。「門出」とか「別れ」とか「グッバイ」とか。私との友達関係を思い出にしたいの? とか、なんかそういう深読みを虎杖くん相手にするべきじゃないと、……思う。そうだよね?
***
「え、何悠仁。何で花なんか持ってんの? もしかして好きな子に贈っちゃう?」
「エッなんで分かんの!?」
廊下を意味もなくクルクル回って鼻歌なんか歌っちゃいながら歩いてたら五条先生に話しかけられた。六眼ってエスパー機能ついてんの!?
「いや定番でしょチューリップ。って待ちなさい悠仁。マジでそれに贈るつもり?」
「待っっって先生なんで知ってん!?!」
「え? 気付いてないの本人ぐらいでしょ。バレバレだよ悠仁。で、なんで黄色選んだわけ? そんなに報われない恋してないでしょ。不吉なんだけど」
「フキツ」
もしかして悠仁知らないの? そこから始まった先生の花言葉談義。始まったというか講義というか、なんも知らんかった俺に先生は色々教えてくれた。花って一個一個に意味があるらしい。ねぇ、俺怖いんだけど。
「センセ、赤いスイートピーの花言葉・イズ・何……?」
「悠仁、赤いスイートピーの花言葉・イズ……グッバイ」
「……やっちった」
ウワー。ドンマイ☆ って五条先生の声が遠くに聞こえた。
***
「……、あのさ?」
えっなんかすっごい気まずそうなんだけど。今日はエイプリルフールじゃないと思う。
先月、虎杖くんの誕生日も無事みんなで祝えて。お米ももらってもらえたし、なんなら炊きたて! って一緒に食べよしてくれたし、虎杖くんが作ってくれたおかずも凄く美味しかったし、やっぱり杞憂だった虎杖くんは知らないだけだった、関係の絶縁を望まれていたワケじゃなかった良かった……! と安心していたのに!? えっ……! なんでそんなにこちらを気遣うような話にくいような顔をしてるんだろう。
「あの、さ。花なんだけど、キレーだったからにあげたかっただけっていうか。深い意味は無い、いやあるんだけど! ……無いっていうか!!」
めっちゃモゴモゴしている。ちょっと恥ずかしそう。ちょっと顔が赤い。嫌われては無さそう。今更になって女子にお花をあげたことを恥ずかしくなっちゃったんだろうか?
「こないだ五条先生に花言葉っていうの聞いて、さ。スイートピーあげたのは逆の意味っていうか、喜んでくれるかな~……っていうか、その!」
五条先生珍しく教師したんだ!! 良かった! これで虎杖くんが野薔薇に薔薇をあげちゃうなんて事故が防がれた。虎杖くん、ホントに知らなかったんだね……! 嫌われてなくて良かった!
「なんか言って!?!?」
「えっあっごめん。大丈夫、ありがとう。嫌われてるわけじゃないって分かって、良かった」
微妙な無言が生まれる。虎杖くんが黙ってしまった。
まあとにかく、虎杖くんはお花が綺麗だったから私にくれたということだ。うん。綺麗だった! ありがとう!
「スイートピーね、すごく綺麗で癒されたよ。ありがとう」
「そっか。良かった」
へへ、と虎杖くんが照れたように頬をかいた。お花もらって、お誕生日にはお米あげたけど、そのあと餌付けされてるし、私も何かもっと虎杖くんに返した方がいい気がする。
なにかあるかな、と考えていると、虎杖くんは、っし、と、ヨシって気合を入れた。
「……。今からヒマ?」
「う、うん?」
「じゃ、出かけない? 桜が綺麗なトコ見つけたから。と一緒に見たいなって」
一緒に。
「……一緒に?」
「二人で行かない?」
ね、と虎杖くんが手を差し出してくる。虎杖くんはじっと真っ直ぐ私の目を見ている。……えっ。ちょっと待って。伏黒くんと野薔薇は行かない系!? 二人でって何!?
なんかちょっと恥ずかしくなってきた。そんなに見つめないでほしい。今日はエイプリルフールじゃないと思う。……そういうアレだったの? だってスイートピーだったのに。
「ダメ?」
そんな拾ってくださいの子犬みたいな顔しないで。
あんまりにもなうるうるフェイスに、ダメではないけど、と小さい声で言ってみると、虎杖くんは花が咲いたように笑って私の手を掴んで引いていく。すっごい嬉しそうだ。……待って、待って。アレ!?
お花フラグ