「棘くんって、海苔巻きの具は語彙に入れないの?」
コンビニのお弁当売り場、おにぎり、海苔巻き。と目についたら、自然と浮かんだ疑問だった。隣でカゴを持ってくれている棘くんが「おかか」と否定する。
そっかあ、入れないのかあ。まあ確かに、これ以上棘くん語が増えたら難しいかも。
少し残念に思いながら、小腹も空いたし面白半分に、端から指をさして具をチェックしてみる。
「エビマヨ、たらこマヨ、ねぎとろ、納豆、サラダ、イカキムチ、プルコギ……」
まじまじとチェックすると、結構色んな具があることに気が付いた。いつも大体どこにでもある、好きな具しか買わないから……。確かに、イカキムチとか、プルコギとか言われても困るかもしれない。今は色んな具があるんだな。
「棘くんって、一番好きなおにぎりの具とか、あるの?」
「しゃけ。ツナマヨ」
「ツナマヨが好き? おいしいよね」
しゃけ、ともう一度だけ頷いて、棘くんがツナマヨおにぎりをカゴに入れた。なんだかちょっと仲良くなった気分。人の好物を知るのは気を許されたみたいでちょっと嬉しい。
また目の前に腕が伸びて来て、それはスッと迷いなく一つの海苔巻きを手に取ってカゴに入れる。
「棘くんもそれ好き? 私はそれ好きなんだ」
「しゃけ」
え。えっ。なんか、微妙に、ニュアンスが、自分もその具が好きに同意したというより、……私の耳には、『知ってる』って聞こえたんだけど。
どういう意味だろう。どこで知ったの? ジッと棘くんを見ていると、ふっと目を逸らされて、棘くんはスタスタ売り場を離れて行ってしまった。
向こうの角を曲がるとき、棘くんがちらりと目線だけで私を見るから、はっとして慌てて追いかける。
や、やっぱり知ってたの? いや、幻聴の線もありうるかも。そうだな、自意識過剰かもしれない。うん。
自己完結し棘くんの隣に追いついて私もみんなに頼まれたものを探し始める。真希ちゃんとパンダに言われたもの、えーと、えーと。
数分前、じゃんけんで負けたのだ。パンダはグーかパーしか出さない。否、出せない。つまりチョキを出せば勝つか負けるかは五分五分。だからあいこを狙ってチョキを出したのに。真希ちゃんも棘くんもチョキを出さなくて全員グーで、私は見事に一人負けした。あれ買って来いこれ買って来いあとあれとこれとこれとあれとそれなお前ホント分かりやすいよなって私の腕を殺す気なんだろうか。注文もとい命令を受け、超絶ブルーな気持ちでとぼとぼ歩きだしたところ、棘くんがついてきてくれたのだ。
「ツナ?」
棘くんって優しいよなあ。あの時も、棘まさかお前のコト……!? って言うパンダに怒りもせず、今も、『これ食べる?』と私の好きなお菓子を指差して聞いてくれている。……やっぱり私の好きな具も知ってたのかな? 真希ちゃんあたりに聞いたんだろうか。
とりあえずお菓子は食べたいので、うん、と頷くと、棘くんは微笑んで、それを足元に置いているカゴに入れてくれた。私も、真希ちゃんに言われたピッツァポテトや、パンダに頼まれたガルパスをカゴに追加していく。他お菓子多数も入れて。うん。
「こんなもんかな?」
彼をうかがうと頷かれ、しかし次は私が持とうとしていたカゴが奪われた。私が持つよという間もなく動かれるから後ろを追いかけて、2リットルのクォーラをカゴに入れようとした棘くんの手からクォーラを奪い取った。目を丸くしている棘くんを置き去りに今度は私がレジへ走る。これは私が持ちます!
「お会計一緒です。あと、袋を二枚で」
「おかか」
「や、棘くんに悪いよ。それに、えーと、お菓子が潰れるからペットボトルと別々に持った方がいいと思う」
棘くんが後ろからレジにカゴを置いて、袋を一枚カゴに追加した。もう一枚袋を千切ろうとした私の手を掴む棘くんに、私は必死で言い訳をする。言い訳と言うか事実である。
「……」
顔がかっこよくて可愛いので、あんまりジッと見詰めないで欲しい。私は当たり前のことしか言ってないもん。
睨み返し続けると諦めてくれたのか、棘くんはジト目でおばちゃんにもう一枚袋を渡してくれた。っておばちゃん詰めるの速くない!? 両方棘くんに持たせないでもらっても!?
当たり前のようにしれっと両方持って行ってしまった棘くんを、皆でお金を入れてるICカードでぴっとスピード会計をして慌てて追いかける。なんか今日、棘くん追いかけてばっかり。
お店を出ると前方に棘くんの姿はなく、キョロキョロ探す。すると、少し向こうの、車を止める段差のアレに棘くんは腰を下ろしていた。
「居なくなっちゃったのかと思った」
「明太子」
まさか、と言う風に、それよりこっちに来て、って棘くんが私を手招きする。近寄って隣に座ると、棘くんが海苔巻きをくれた。私の好きなやつ! 彼は次いでツナマヨおにぎりを出して、ぺりぺり開けている。まあ確かに、お腹空いた。
「ごめんね棘くん、付き合わせちゃって」
「しゃけ」
首を振りながら大丈夫と言う彼は口元のジッパーを下げて私の手元を見ると、にやりとちょっと意地悪く、それでいて楽しそうに笑う。悪戯っ子みたいな顔。それから。
「――」
聞き慣れない単語だ。唇に人差し指を当てて、秘密だよ、ってする棘くん。私の好きな海苔巻きの具を呟いたのだ。うん、と頷きながら、自身の口角が上がっていってしまうのが分かる。
秘密を作るとその人との距離が縮まるという。確かに、そうかも。
私はちょっとどきどきしながら海苔巻きを開けて、海苔を巻き始めた。棘くんが実は海苔巻きの具も喋れるなんて、知ってる人、他にいるのかな。
おにぎり+海苔巻き=