癒される……と、傑くんは私の太ももを触るのをやめない。隣に座って肩を抱いてべったりくっついて、撫でてみたり、掴んでみたり、つまんでみたり、つついてみたり。その度に私は目の前にある己の脚の肉感を見せられるという苦行を強いられている。
「はあ……むちむち」
挙句の果てに、この言葉である。
脚を出したくないから自分じゃ買わないのに、傑くんがもこもこのショートパンツを送ってきたから、仕方なく履いてるのだ。気に入らなかったかなってシュンってするのはズルい。デザインは可愛いし肌触りもいいしで、一人の時なら喜んで履くけど、彼の前だと、ちょっと。撫で回されている己の太もも、シュッとしてないから非常に気になるっていうか。気にしてるっていうか。むちむち。……むちむち。
「傑くん。むちむちっていうの、やめて」
「え……褒めてるんだよ」
「それでも、私、気にしてる、から」
「赤くなってそんな泣きそうな顔をして。私の恋人は可愛いなあ」
傑くんは幸せそうに私のことを抱き締める。二人っきりでいると、自分で言うのもなんだけど、傑くんの好き好きオーラが全開っていうか、そんなに私のこと好きだったの? って恥ずかしくなるような態度がずっとだ。
「嫌だったのならごめんね。言いかえるようにしようか。そうだな……。じゃあ、かわいい」
私の膝を伸ばして、傑くんが私の脚でもっと遊ぶ。
全然、そういうことじゃ、ないし。それ、むちむちっていう意味で言ってるってことだよね?
「はー……かわいい。かわいいね。たまらないな」
彼が上体を下げ、あろうことかそのまま内腿に顔を埋めた。
「な、なにするの!」
足を動かそうとすると掴まれて押さえつけられてしまった。傑くんが吐く熱い息が内腿の間を抜けていく。傑くんの顔が私の脚に埋まっている。なにこれ、どういう状況!? すーはー深く息して傑くん、私の脚猫吸いのごとく吸ってる……!?
「や、やだ。傑くん……」
恥ずかしくて蚊の鳴くような声になってしまった。傑くんは、動物が甘えるように鼻筋や額を私の脚にこすりつける。……多分、だけど、疲れてるのかな。
傑くんのお団子をまとめているゴムを優しく引っ張って解いてみると、はねかえった毛が広がった。ゆっくりと指を通して、傑くんの頭を撫でながら整える。この人が私の脚に顔を埋めてすーはー言っているのを置いておけば、膝の上に乗っているネコチャンみたいだ。ちょっと、かわいいかも。
「っひゃ」
もしかして声に出てしまっていただろうか。いきなり、れろりと腿を舐められるような感触があった。びっくりして声が出た。だめだ、撤回する。ネコチャンはこんなことしない。
ちょっと、と抗議してみると、啄まれるようなピリッとした熱い痛みが走って一層恥ずかしくなる。そんなとこにまでつけなくたって……!
傑くんは、はー、と熱い息を吐いて、くるりと上を向く。……あ、思ったよりえっちな顔。
「嫌なら、やめようか」
私の脚に頭を置いて見上げてくる彼の熱い瞳に射貫かれてしまう。欲情してる、顔。ネコチャンなんて可愛らしいものじゃなくて、もっと獰猛な、ぎらぎらした目。
……スるの、かな。傑くんは目線を少し下げて、舐め回すみたいに私の下乳を見ながら、私の唇に手を伸ばして、いやらしくなぞっている。少しカサついた指先が触れる度に、思考が溶かされていってしまう。
*
「あのね、五条。お願いがあるんだけど」
「なに?」
「最近傑くんが、むちむちを可愛いに言い換えるようにしたんだけど、何気なく可愛いって言われるときにも、ぽっちゃりしてるねって聞こえるようになってきちゃって……。やめてって言って欲しい、んだけど。今度甘いもの驕るから」
「は? ぽっちゃり? バカなの? むちむちを訳すにはエロい以外に言葉ないんだけど。エロい。お前の体エロいよな。甘いものより、可愛いからちょっと触らせてくんない?」
「えっ。私は傑くんのものだもん」
「うんうん。かわいいかわいい。いやほんとカワイイよ。俺は別に傑となら穴兄弟になってもいーんだよね」
えっ。教室で純粋に頼み事をしていただけなのに!? 五条はニヤニヤと手をワキワキさせて席を立ちにじり寄ってくる。私も席を立ちへっぴり腰で妙な構えを取る。ま、待って。五条、思ったより私の身体を狙っていた?
「私のに、何をしてるのかな。悟」
「私の」
ガラッと開いた扉を見ると、ニッコリとした傑くんが立っていた。五条はひーひーお腹を抱えて笑い始めた。げらげら言っている。なんか恥ずかしいこと言われたような気もするけど、もうそのくらいは今に始まったことじゃないし、五条が笑い転げてくれているおかげでスルーが可能だ。
とりあえず助かった……と思って傑くんの傍へ寄ろうとすると、五条が私を指差して捲し立て始めた。
「傑、コイツ、お前に可愛いって言われんのデブって聞こえようになったらしーぜ。責任取ってやれよ」
「え……私はそんなこと言わないよ。、おいで」
デブってストレートに言うな。もうちょっと、もうちょっと私だって痩せたい。痩せようとすると傑くんが最悪なタイミングでお菓子を差し入れてくるんだからしょうがなくない!? 運動しようとしたら一緒にしてくるしあとで餌付けされている気がするしホントに狙ってやってるとしか思えないんだからね!?
しかしそんな現金な私は、傑くんの手招きにも抗えず素直に近寄って行ってしまう。だって声が優しいんだもん。おいで、って。そんな風に優しく言われて抗える女の子っていないよ。むしろこんな私を好きでいる傑くんの方がおかしいんでは。
「ふふ。こんなに可愛いのにね」
「え、っと……」
「は可愛いよ。もっと自信を持って」
「いや可愛いっつーかエロいんだワッぶねぇな事実言っただけだろ!」
傑くんがニッコリ笑顔で五条を殴ろうと拳を繰り出したのが視界の隅に見えた。空ぶった腕が今度は優しく、私をしっかり抱き締める。それから傑くんは柔らかく私の名前を呼んでは頭を撫でる。傑くんの匂いが、硬い胸板が、優しい指先が。は、はずかしい。彼の唇から紡がれる私の名前が鼓膜を震わせるのについぞ耐えられなくなった。そんな、そんな、好きだよっていうみたいに呼ばないで! 羞恥心で下がっていく顔を無理矢理あげると、目が合った。
「可愛いね」
ただ、微笑まれただけなのに。顔から火が出そうだ。心臓がうるさい。でも。その、かわいい、って、どういう意味?
「可愛い」
五条のせいで、可愛い、が、エッチだねとも聞こえるようになってきた。だって、ただでさえいやらしい目つきをしている傑くんの目が、私を見る時は柔らかく細められて、言うの。傑くんがえっちすぎて、えっち、としか聞こえない。
「は可愛いよ」
「も、もう言わないで」
「どうして。可愛いのに可愛いって言っちゃいけないの?」
えっち、って、聞こえるんだってば!
言えずにいる私に、傑くんは優しくキスを落とすと、胸元に顔を埋めた。開けた視界、周りを見ると、そういえば五条はいつの間にかいなくなっていて、癒される……と私の胸の中で大変満足げに呟く傑くんと私だけが教室に残されていた。
彼の頭を撫でながら、今更だけど、傑くんはちょっと変態かもしれない、と思った。
おいでませユートピア
title by トロニカは星を巡る