「……五条、さん」
「なになに? どうしたの?」
後ろが階段だったから、私は思い切って声をかけた。すると五条さんは近寄って来てくれて、いつもみたいに背中を丸めて顔を近付けてくれた。でも、ダメ。見えない。
「……その。あの、えっと」
きっかけは些細なことだった。この間、車で五条さんをお迎えに行ったら、帳の中から出て来た五条さんは、というより無下限で階段でも作ったのか下からそこを登って来た五条さん(現場には盛大なクレーターが出来ていた)、の、がっぽり開いている襟元の内側が肌色一色だったのだ。
インナー事情が気になって夜も眠れない。普段から首元が空いているのは知っていたけど、上からがっつり目撃したのは初めてだったのだ。まさかの五条悟半裸説? 前合わせのジッパーを開けたら素肌がドーンってことに……?
「僕の首になんかついてんの?」
「い、いえ」
どこを見てるかまで分かるなんて恐ろしや六眼。ほくろひとつない綺麗な頸部であられます。でも私が気になってるのは首ってわけじゃない。こんなチャンスはまたとないだろう。
私は後ろ足を上げて、一歩下がって、というか、階段を一段慎重に登ってみた。目線がかなり高くなる。でも全然見えない。依然として五条さんの目線の方が高い。解せぬ。
五条さんは首を傾げながらも表情を変えず、黙って私を見ている。疑問符が彼の頭上に見えるようだ。私はさらに一段登ってみた。
「五条さん身長高過ぎません??」
「パンダより低いよ」
「比べる対象がおかしいです」
もう一段登ってみると、やっと五条さんのつむじが見えた。こんな高い目線で生活してるんだこの人。色々と規格外すぎる。今更だけど。
って、つむじ。つむじ?
「見上げるのは新鮮だな」
五条さんの青い目が若干の上目遣いで私を見上げていた。いつの間に距離を詰めたのか至近距離、とにかく顔が近すぎてやばい!
「あああの、目隠し取らないでもらって大丈夫です」
「僕の自由でしょ」
そうですけど! 逆になんで取ったんです!?
少しでも離れようと慌ててもう一段登ろうとしたら、前にいる五条さんに気を遣ったせいもあって足が上がり切らず、あろうことがバランスを失った。一番最悪のパターンな気がする。ドジすぎない?
重力に従って前に倒れていく視界がスローモーションのように流れていく。倒れる数秒って結構長い。床とごっつんこするのはつらい。五条さんにダイブするのは申し訳なさすぎて困る。あっでも無下限で受け止めて下さったらワンチャン……? なんて言う事の利く頭だけで考えていると、五条さんが回避もせず腕を広げて受け止めてくれた。
なんか、全然、抱き留められたという表現をしても間違っていないような、なんか、もしかしなくとも無下限の内側に入っている、と思うし、背中にまで腕を回して支えて下さってる気がする。五条さんの肩口に思い切り寄りかかってしまっている現状を理解したくなくて固まるしかない。
「危ないよ。何やってんの」
「すいません……」
思っていたよりもずっと安定感のある彼の体に顔が熱くなってくる。五条さん、着痩せ? 胸板も、首回りも、肩回りも、背中も、逞しいんですけど。凄い、筋肉ついてるし、男らしい、っていうか、あの。
やばい、心臓どきどきしてきた。早く離れなきゃ。
五条さんの肩に手を置かせてもらって、離れようと、そおっと体を離そうとすると、首の裏の隙間が近かった。あっ! み、み、見えそう! み……見え……見えない!! って逆になんでこの距離で見えない!? 一面肌色!! 首の骨のでっぱりとか背骨のくぼみとかがやばい!! 一面肌色!! 前の方も鎖骨も胸板と思われる膨らみまで見えてるのに!! なんで!? こんなにガバガバなのに!! やっぱり着てないんですか!? だから、だからこんなちょっとくっついてるだけなのに恥ずかしくなるくらい肉付きまでダイレクトに伝わって来る……!? ええいままよ!
私はぴっと人差し指で軽く布を引っ張った。あっ!!
「着てた!!!」
「……え、何。もしかして僕裸パーカーだと思われてたの?」
*
そんなこともあったねえ。今、壁ドンされてあたふたしてるは慣れないのかまだ初々しい様子を残している。
「あのあと僕たち初めてキスしたよね。いい加減慣れなよ。もっと凄いことだってしてきたよ?」
「高専では! やだって! 言ってるの!」
「えー。だって壁ドン流行ってんでしょ? やってみたかっただけだって。見せたいものもあったし」
彼女の片手を取って、僕のパーカーのジッパーに小さな指先をかけさせる。五条さんのジッパー音が出ない……滑らか……お高いやつですね……と謎に感動していた昔の彼女を思い出した。ふ、っと笑みがこぼれる。「何ニヤニヤしてるの」昔を考えると、敬語も抜けたし、言いたいこと言ってくれるのは昔からだけど、ちゃんと距離は縮まってる。まあ付き合ってて何言ってんだって話だけど。
縮こまって固まったまま僕を見上げているが可愛くて、差し出されてるみたいな喉元にまで唇を落としてやりたくなってしょうがなくなる。あの時の真正面に見えたお前も可愛かったけど今の上目遣いも殺人的に可愛いからもっとやって。むってしてるの可愛いから睨んでるつもりでも可愛いくなってるよ。あー。僕、このままだとムラムラしてきちゃいそうなんだけど。だから早く。
「開けてみて」
「え……どうして?」
「いいから」
開けるまで開放する気が無いのを察したのか、彼女は困惑しながらも、す……と少しずつジッパーを下げていく。首、鎖骨を超えて、胸板の上あたりを超えて、真ん中くらいまで下げたところで。彼女が手を止め、ん? と分かりやすく首を傾げた。ウケる。
「もっと。今日面白いインナー着て来たから」
僕を見上げて、えぇ、と気が進まなそうにするから、早くしないと生徒にイチャイチャしてんの見られちゃうよ? と急かしてやった。途端に素早くジッパーを下げられる。彼女が小さく息を吸い込んだ。
「っきゃあ!!」
「最近暑いからさ。試してみたら結構涼しいもんだね、これ」
直に肌が空気に触れてスースーする。裸パーカー。詰め寄って、むぎゅっと彼女の顔面に胸筋押し付けたら藻掻いてんのウケる。腹におっぱい当たる感覚がダイレクトで最高だし、またしよっかな。あ、今度はあの時みたいにに階段に登ってもらって、僕がおっぱいダイブすんのも良いかもね。次は胸と顔ってワケ。胸と胸であいさつした仲だしね。あの時も、柔らかかったな~。
シークレット・アンダー