Short



「ゴッメーン☆ 待ったー?」
「……臭うんですけど何加齢臭?出張の後はいつもふけるんだね」
「は? あたしも今きたところぉ♥っていうとこなんだけど」

 彼女のジト目に当てられている。目の前には空のパフェグラスが2つある。残りの1パフェ、クリームは溶けきってて、どろどろ状態のアイスみたいになったその最後の一口を彼女がスプーンで掬ったから「あーん♥」口をあけてサングラスの隙間から上目遣いで悩殺してやるも、あろうことか彼女は超キューティーだろう僕のことをガン無視し、その一口を自分の口に運んでいった。
 は?
 滅茶苦茶機嫌が悪そうだけど僕も今ので機嫌が悪くなった超絶だ。溶けきったパフェのクリームもらったところで回復量は知れてる、でもにあーん♥してもらえれば疲労は一気に吹き飛んだのに。
 ホント仕方無いな。僕も適当にメニューをひらき、目に付いたパフェをオーダーする。

「もう少し自覚持った方がいいよ。自分が思ってるより仲間思いだってこと。まぁ中身は無いだろうけど」

 これが俗にいう心配っていうやつかな。やば勃ちそう。彼女は時々僕のせいで不安定になる。でも今も僕を選んでるんだ最高かよ。収めて収めて。何も心配いらないのに。平静を装う。
 目の前には底まですっからかんの3つのパフェグラスが並んだ。ご馳走様、が席を立った。

「え、何行っちゃうの?」

 ふざけんな僕は怒っている、なんたって一口も口にすることが出来なかったんだぞ。プンスコ。絶対、さっきの一口は僕に、あーん♥するべきだった。昨日のワンナイトラブの女はしてくれた。あれは悪くなかった。てかマジで?

「何、労わってくんないのに呼んだの?ひどくない?出張帰りって知ってる癖に。あと加齢臭なわけないだろ」

 投げかけるも――無視された。振り返りもしてくれない。背中にガン無視と書いた彼女が小さくなっていく。勿論伝票は未だそこにくるくる丸められて突き刺さっている。
 けどまあいいよ本命は逃げない、なぜなら最強の僕が彼女を愛しているからだ。よって追いかけるよりも今は甘い物の補給が最優先の任務だ。僕が死んだら君も死ぬ。パフェはまだ届かない。早くしろ。

 むしゃくしゃしながらメニューを再度ひらき時間を潰す。糖分が足りないこのままでは死ぬ。の愛不足で僕死んじゃう。さっき頼んだな定番の、これもさっき頼んだわ季節限定、アレどっちだったっけ。お、変わりダネ、――ベジパフェ。何だこれパプリカ入ってるウケる。僕は絶対食べない。恵に買ってってやろうかな。

 新幹線を降りる5分前、東京駅周辺駅ビル、フルーツパーラーから魅力的な写真が送られてきたんだ、魅力的な文言つき『悟くんが大好きなものが揃ってます』。出張帰りで疲れ切っていた僕は愛する彼女のお願いに吸い寄せられるように吸い寄せられたわけだ。
 ちょっと頭の悪い日本語を使ったけどそれ以外の言葉が見つからないんだからしょうがないだろ。言っとくけど僕も僕の蒼も掃除機じゃない。どっちかっていうと掃除機は傑だと思うんだよね。とにかくは僕の予定を知ってたんだろう。

 しかし冒頭の通り、その言葉ともパフェの甘ったるい匂いとも対照的にゴ機嫌ナナメだった彼女はオーバーカロリーを摂取し既に退場済みだ。追いかけて♥とかいうタイプでもない。甘いものを食べた私ごと食べて♥って意味かな。
 僕はやっと届いたパフェを一口レベルで流し込み味わいながら伝票を手に立ち上がり、の呪力を辿る。近くにいないな。…どこにもいないな。死んだなんてことはありえない――自殺しない限り天命まで、、死なない縛りだし。ので正解は、隠れやがった、だ。俺から? バカだろ。

『ばいばい』

 レジに差し出そうとした伝票、目に入って来たのは小学生かなというような語彙の彼女の筆跡。は逃げない。傑も逃げない。そんな馬鹿げたことを考えていた。好きだから一緒に居るだろ。違うの? どうも違うらしい現実は全て正反対だったワケだけど。俺が許すわけないのに。あいつら最強から逃れられるとでも思ってるのか? に至っては溢れ出てる呪力もとい呪いもとい僕が好きって心が押し殺せてないんだよ。そうじゃなくても分かっちゃうけどそういうことにしておきたいの。

 適当にカードで払って適当にビルを出て人目のつかないところで目に付いた呪霊を適当に祓って彼女が引き篭もっている空間へ瞬間移動した。しかし目の前の無駄な彼女の領域展開は、五条悟の入室を拒否していることを僕は悟った。悟だけに。クソ寒いな。

 僻地に行こうが海外に行こうが天空海中天国と地獄例え世界を超えようが僕の前には無意味だということを知れ。僕が生きている限りこの世界は続いていく。

 適当にツ・ヨ・サに物を言わせの領域に入ってみたけど、僕に必中技なんて当たるわけがない。ま、必中技を僕の股間に設定していただろうことだけは、あとでなきながら謝罪してもらおうと僕は心に決めた。
 丸まってスマホをいじっていたが、ダルそうに僕を振り返る。そのちょっと悔し気なの表情に胸がときめく苦しい。絶対に自分が敵わないってわかってる顔だ。それでも認められないんだろうね。認めちゃえよ。楽になれるのに。ただの事実だろ。可愛いなあ。気分が盛り上がって来た。彼女の呪力が俺に向けられていること、ただそれだけで嬉しさを感じちゃうんだよね。ああ。このグッドルッキングガイ割とちょろい、自分でも自分にちょろいと思わないこともない程にちょろい。僕チョロすぎ。にやにやが止まんないよ。

「なんっであからさまに拒否ってるのに入って来るのバカなの?輪廻転生したほうがよくない?」
「いやさっき甘いものを食べた私のことも食べてって言ったじゃん?」
「言ってないけど頭大丈夫?パフェ補給してこなかったの?砂糖足りてないんじゃない?」
「足りてないからお望み通りを食べに来たんだよ?」
「うわぁ……」
「なんで引くの」

 彼女が無駄な領域展開を解き、「おっと」寸でのところで場所を飛んだ。ぼふんと着地した僕の部屋のデカいベッド、俺は彼女の上に馬乗りになっている。やっとだ。やっとを堪能できる。交わった後に少しばかり深く眠れるのも悪くないんだよね。とにかく何でもいいから補給させて。
 彼女の唇に真っ逆さまにちゅっちゅしているのに反応は思わしくない。おかしい。邪魔してくる悪い子の手は頭上で一纏めにしてあげた。

「っやだ。重いからどいて。ていうか近寄らないで情緒は子供身長は巨人」
「仮にも恋人にその罵倒ひどくない?興奮しちゃうんだけどどうしてくれんの」
「気持ち悪。ってそうじゃない聞いてよ。悟っていう脳筋巨人性欲魔人はいっつも強けりゃ良いじゃん☆っていうし「今の真似ちょっと似てたよ、うまいね僕の真似」茶化さないで、って、抱き、し、めるな、っぐ、つぶれ、る、ぅ、」

 体重をかけ倒れこむと死にかけている。彼女の手元に転がっているスマホには会話が録音されている。…何か仕掛けられているぞ。気を付けろ五条悟。言質を取られたら死ぬまで言われるぞ。それもそれでイイけどさ。とりあえず停止ボタンを押した。彼女は俺の下で苦しそうにしている。
 僕にも仏の心はあるので(恵には、は?あんたのそれは閻魔の好奇心でしょと言われたことがある。なんて酷い生徒だ)、何を言ってくれるんだろうかと、押し倒す図に改善してあげる。

「とにかくもう恋人じゃないから。どいて。別れる別れたのさようなら!」
「なんで?僕のお姫様は一体僕に何を言わせたいの♥」
「別れるって言って欲しいの♥ 別れて」
「ハートつけたって別れるわけないでしょ。やだよ♥」
「なんで!?」
「いや僕の方がなんでなんだけど」
「股間に聞いた方が早いよ」
「えー?分かんないなー。ヒントちょーだい♥」
「出張香水女!」
「それじゃ答えでしょ。嫉妬してんの?かわいいねぇ。でも今更だと思わない?」
「別に。それだけじゃないし」
「認めた。認めたな? 僕の可愛いが僕が他の女を抱いたことに滅茶苦茶妬いてるって認めた……」
「気持ち悪…何で悶えてんの…? 傑の方がモテた理由やっぱわかる…悟は気遣いが出来ないし浮気を繰り返すし人の心が無い。うわっクズだ!ダメンズだ!まるでダメな男だ!今すぐ逃げよ!」
「逃がすわけないでしょ♥僕は一筋なんだから」
「お願い逃がして?別れてくれるならたまに肉体関係だけ持ってあげるから♥」
「別れる前提なのおかしくない?」
「おかしくない。今まで切って来た女の数を数えた方がいい」
「でもソッチは癖になってんだろ?」
「殺す」

 横に転がって背中側からをつかまえた。今向き合ったら絶対蹴られるもんな。首元の、先週僕がつけたはずのシルシがすっかり消えてなくなっているのが見えたから、もう一度つけながら、呪いでも込めてやりたいなあと思考が浮かんだ。けどもう既に、僕と彼女は呪われてるな。とにかくさ。

「セックスしたいのは最大級の愛でしょ。は僕にとって特別なんだよ。分かって欲しいな?」
「可愛く言ってもヤダ。他の女とシまくってる癖に」

 拗ねてるみたい。丸まって背中にぴったりくっついて、彼女を抱きしめてやる。パンダほどでかくなる必要はないけど、大体の人間は僕にとっては小さくて弱すぎる。救うべきものの対象なんだ。傑が僕に、そう定義した。彼女の髪を梳いて僕は、今すぐにでもブチ犯したい逸る気持ちを抑えながら、彼女の心を落ち着けている。、と、とびっきり優しく名前を呼べば、彼女は僕に抗うことは出来ない。

「悟が救ってるのはいつも命ばっかり。…傑は飲みこんできた呪霊のことを覚えてるって言ってた。悟は。本当にわたしのこと好きなの?心を見せてよ」

 ああなんて可愛いんだ。そう僕は仲間思いなんじゃない。救えるものは救ってるだけだ。ま、結局屍の上に立ってるんだろうけど、それは君だって同じだ。だから、対比的に救えてなくはないんじゃないか、と思ってる。守りたいものだけが守れないのは本当だ。そんなのはもうごめんだよ。だから俺は君に酷い縛りまで課したのに。時に彼女は俺の心を抉っていく。痛いんだ。それが愛おしいんだイカれてるだろ。唯一僕に傷をつけられる存在は、今はもう君しか居ない。君まで居なくなったら僕はきっと窒息する。やっぱり僕だって人間だろ?
 おかしいナイーブだの塩対応のせいだこれは砂糖が足りてない。僕の心なんて筒抜けじゃないか。分かってんだろ。口でも愛を語ってくれよ。

「それ自分の心が分かってないだけじゃん。こそ俺の何を知ってんの?」
「私より前髪サマーオイル君が大好きってことなら知ってる」
「オマエ傑に呪い殺されるぞ、そのあだ名」
「悟が守ってくれるじゃん」
「…そりゃ守るけどさ」

 嫌いな食べ物は特にない。心とか、好きとか呪いとか、どういう味がするのか、考えるだけ無意味だろ。俺が若人だった時の一瞬の時間。でも、それがあっただけでも僕にとってはきっと幸せだ。何を前にしても、難しいことを思考しない。それが楽しむコツであり全てだ。やっぱ愛も呪いもロクなもんじゃない、僕が死んであげないのは君のためだ。君が死ねないのは僕のためだろ? 君と僕の心臓が動いてる、それだけだ。これほど歪んだ呪いがあるか?

「うわ下半身が反応してるんだけど。サイテー」

共犯