犬耳つきのパーカーを見に纏っている俺の彼女が、正座して、ベッドの端に腰を下ろしている俺を見上げている。
 俺が見下ろしているはずなのに、この威圧感は何だろう。可愛いから、圧も何も無くなってっけど。犬だったら、イカミミ状態になってんだろう。多少警戒しているとき、緊張しているときなんかにする、少し耳を伏せた姿勢。つくづく俺って犬が好きなんだなと他人事のように思う。図らずして、犬顔女子を選んでしまっている。

「恵くん。うさちゃん。脱兎を、召喚して欲しい」
「…あいつらに何か用事でもあんの?」
「……ある。ひゃくいっぴきうさちゃんが、したいの」

 大の動物好きであるは、時々俺にこうやって、式神を召喚してくれとねだる。何ヵ月か前に押しに押されて、付き合って!に分かったって言っちまったけど、俺の式神が目当てだったのかもしれない。俺に対するお願いって、それしかされてねー気がする。
 …気のせいじゃないな。玉犬から始まり、蝦蟇は怖々って感じだったけど、満象、大蛇に鵺と、…鵺は割と顔がイカつい方だけど、もふもふだ~!って嬉しそうに羽に顔うずめてたっけ。鵺も最後の方は緊張が解けて嬉しそうにしてたし、…まあ、そういうことだな。釘崎がうるせえから付き合ったけど、……いやまあ俺も結構のこと好きだったけど。あそこ行こうよここ行ってみない?名前で呼んで欲しいなあ玉犬ちゃんのお散歩したいなあって色々言って来てくれるから、なんか、舞い上がってたけど。

「……だめ?」
「別に。出して欲しいなら今出す」

 掌印を結び、脱兎を呼び出す。

「…!!!」

 ポポポポポン、と出て来た脱兎が、ベッドの下、つまりがいるところをドタタタ走り回る。の正座している膝を飛び越え、…またアイツか、アホウサ。ビビってジャンプ方向間違えての顔面に激突してんじゃん。

「っぐ、もふ、もふ……」
「良かったな」

 えへへへへと気の抜けた風に笑ってるを放って、読みかけの本を手に取りベッドに転がって天井を見た。続きを広げて横目でを見ても、脱兎の腹に顔を寄せて嬉しそうにしている。犬とウサギが戯れてやがる。目に優しい。良かったな。モヤる気分には知らないふりを決め込んで、俺は本の続きを読み始める。



「恵くん、うさちゃん何匹いるの?」
「数えてみれば」
「えー…いっぱいいる」
「ああ」

「恵くん、うさちゃん見分けられる?」
「一応は」

「…恵くん、見てみて。この子自分から乗って来てくれたの」
「良かったな」



 恵くんは本から目を離さない。多分真面目に読んでいるのだろう。
 まあ、なんていうか、塩対応。

 ……恵くんの式神全部見たくて、もっと親しくなりたくて、式神とも仲良くなりたくて、色んな式神出して出して、ってお願いしてたのが、良くなかっただろうか。
 そうだよね、普通に考えて呪力も消耗するわけだし、万象くん出してくれた時、結構大変そうだったし。普通にゾウすぎて吃驚したっけなあ。途中で来た虎杖くんに、アレ伏黒ソイツ出したん?出すの大変なんじゃなかった?って言われて、恵くんを見たら耳を赤くして顔を逸らされたのがちょっとだけ懐かしい。
 …でも、蝦蟇くんを出してもらった時は、ちょっと硬い顔してたし、鵺ちゃんは可愛かったけど、最初はちょっと緊張感漂ってたし。

 …やっぱ呆れられちゃったかイヤになられちゃったのかもしれない。…今までは式神のことも気にかけてた恵くんが、うさちゃんには我関せずというように放っている。…どちらかというと、式神に心があるらしいと言えど、恵くんはうさちゃんに言うことを聞かせられるわけだから、私を放っているんだろう。または、単純に物凄くその本の続きが気になっているのか。

「…恵くん」
「なに」

 ほら。やっぱり。本に恵くん取られた。ずーーっとそれ見てる。返事はしてくれるけど、こっち見向きもしてくれない。

 聞いてよ、うさちゃん。恵くんったらデートの時、手も繋いでくれないんだよ。玉犬ちゃんのお散歩デートした時はリードを持たせてくれたから、これは確実に信用されている!!って嬉しくなったけど、そのあとも何回か出かけたり部屋に押しかけてるのに何の素振りもないんだよ。野薔薇にアンタならOKされるっていうか伏黒はアンタしかOKしないわよって言われたから好きです付き合ってくださいって勇気出して言ったのに普通にフラれたんだよ。それでもめげずにアタックし続けて、付き合ってください!に分かった!って鬱陶しそうに言ってもらえたんだよ。

 恵くんが付き合ってもない女の子を部屋にあげるとは思わないし、一緒にでかけるとも思わないけど、……ほんとに付き合ってるんだろうか、私たち。…恵くん、私のことちゃんと好きなのかな。……好きとか、言われたことないし、なんか、いつもお願い聞いてもらってるだけっていうか、…向こうから何かに誘ってくれたことだって、ない。…やっぱり、私がしつこかったから、付き合ってくれただけなのかな。
 気付けば、ぽろ、とうさちゃんの毛皮を涙で濡らしてしまっていた。きゅ?!とでも言いたげに、膝の上のうさちゃんが、私のお腹に手を当てて、顔を嗅ごうと上体をあげる。かわいい。もふもふ。ごめんね、大丈夫大丈夫。うさちゃんの毛を慌てて拭う。ごめんね。…ダメだ、ちょっと止まりそうにないかも。もふもふが癒しすぎて心が弱くなっちゃったのかもしれない。おろ、おろおろおろと他のうさちゃんたちも私の周りに集まって来た。うさちゃん大集合。ほんとに何匹いるんだろう。かわいい。

「ん?…何たかられてんの。つーか、何、泣いてんのか?ッイテ、」

 こっちに来ようとしてくれた恵くんが、床に置いた足を、うさちゃんが、齧った。恵くんが、噛まれている。

「……イテエ」

 気付けば、全てのうさちゃんがご主人様を一心に見つめているじゃないか。私からは勇ましい背中だけが見える。
 一匹一匹はこんなに可愛いのに、凶悪な前歯を持ったもふもふが束になると、……ちょっと怖い。私の周りにくっついてくれているうさちゃんが、おしりをすりすり寄せて来て気遣ってくれるのは可愛い。……ご主人様に逆らったら、消されちゃうかもしれないのに。って恵くんはそんなことしないだろうけど、…やっぱりこれは、なんか、うーん。私のために怒ってくれてるんだろうか。いや、それは言い過ぎだろう。何も無いのに恵くんが気付いて起き上がったのを見ても、まあなんか、知らせてくれたのだとは思うけど、…や、でも、噛むかな。
 ぐるぐる考えていると、、と恵くんに名前を呼ばれて顔を上げる。

「俺が悪かった。素っ気なかったよな。ごめん」

 敷き詰まっていたうさちゃんたちが道を開けた。圧巻だあ。…色々と吃驚しているのでさっきから涙は止まっている。

「…恵くんも一緒に、うさちゃん可愛がろうよ」
「分かった。もしかして寂しいだけで泣いた?脱兎だって泣かねーけど。ッイテ、」

 トゲがある。怒っている。いや、呆れられている。さっきとは別のうさちゃんが恵くんの足を齧っている。恵くん多分あれだ、めんどくせーからとりあえず何が悪いかいまいち分かってはねーけど謝っとこう派の人だ。家庭円満になる人だ。大人だなあ。
 …まあ、確かに恵くんの言ったように見えるだろう。寂しくて泣いたの、…あながち間違ってはないけどもうちょっと理由あるもん。もうちょっと言い訳させてよ。
 未だに恵くんの足をがじがじしているその子の背中を撫でて、抱っこして止めさせた。もふもふを抱き締めながらなら、きっと心が強くなる。…多分。

「…その。恵くん、やっぱり私のこと好きじゃないのかなあって…、思っちゃって。ッイタい!」

 がじ、と抱っこしていた手を齧られた。ごめんなんか嫌なとこ触った!?

「ソイツが答え教えてくれたぞ。良かったな」
「っえ、え?」

 それってどっちの意味、って考えようとしたのに、うさもふが私に立てと促すから立たざるを得なくなって、後ろから私のカカトの間にでも入ろうとしているのかわちゃわちゃしてくるから促されるまま歩く。あわわとなりながら歩いてたら、いつの間に恵くんは場所を戻っていたのか、最初みたいにベッドの端に座っていた。そこまで連れていかれて至近距離でばちっと目が合って、え、顔赤い?って思ったのに、くるっと体を回され引き寄せられて、背中側から私もベッドに座らされてしまう。恵くんの足の間。ぎゅ、とお腹に手が回されて密着する。恥ずかしくって、吃驚して、声も出ない。

「…お前はどうか知らねーけど、俺はお前のこと好きで付き合ってる。釘崎が何言ってたか知らねーけど、多分間違いじゃない」

 私の首のところに恵くんが顎を置くから、ハネてる髪の毛が当たってくすぐったい。足元に集まってきてじっとこちらを見てくれているうさちゃんたちは、首取れちゃうんじゃないかってくらい頷いている。
 …ほんとなのかな。……恵くん、私のこと、ちゃんと好きなのかな。

「…だから、…脱兎で式神最後だし。動物目当てで付き合ってるわけじゃないなら、俺にも何か頼んでくれていい」

 なんか、頼む。なんか、って…なんかって。…手、繋ぎたいし、キスもしたい、けど、それはまだちょっと恥ずかしいから、…やっぱり手、繋ぎたい。
 お腹に回されている手に、恐る恐る自分の手を重ねてみる。恵くんがスッと指を絡めて来てくれた。骨ばっていて、少し薄い、大きいてのひら。いつも玉犬ちゃんを撫でてる優しいてのひらが、今は私の手と繋がれている。

「…えへへ。手、繋ぎたかったの。叶っちゃった」
「ふーん。それだけでいいのか」

 ……恵くん、思ったよりいじわるだ。でももう知っちゃったもんね、恵くんは私のこと好きだし、きっと今照れてるんだって。恵くんは恥ずかしいと顔逸らしちゃう人だもんね。顔見られたくない人だもんね。でもそんな風に言うなら、顔みないと出来ないこと、お願いするもん。

「…うさちゃん、しまってから」
「ん」

 ありがとな、って恵くんがうさちゃんにお礼を言って、うさちゃんがしまわれる。どきどきしてきた。どうしよう。

うさちゃんぱらだいす