えっ、なに、あのパンツ。
 五条はいい。ブルー。至って普通。……傑?????

 蒸し暑い夏、硝子と共有スペースに行くと、傑が五条とガラの悪いヤンキー座りをしていた。椅子にかけてある上着。二人は半袖のシャツで、ズボンがこう、たたんでいる足に引っ張られているワケで。背中、腰、背骨、くぼみ、えっち。……パンツ。
 共有スペースに来た者は、二人のパンツを目撃することを強要される状況が出来上がっていた。幸いまだ他に誰も居ないし、硝子はいいけど、傑のパンツ他の子には見られたくない。今すぐしまって!私だけに今からそのパンツ見せて!

 私は硝子と顔を見合わせ超小声で『今から確認する』『今度写真送って』と作戦会議を終えた。
 二人でそれとなく普段通りに近づいて行く。硝子が死んだ目で五条の腰を蹴った。「イッテーな」とかなんとか五条が言ってるけど、「無下限で防げばいいだろう」なんて余裕ぶっこいていつも通りに微笑んでいる私の恋人は楽しそうだけど多分絶対気付いていない。それともやっぱり見せパンなの?私というものがありながら?私のパンツ他の人が見ようものなら物凄い分からセッする癖に!?許せない! 筋肉質な大きな背中に後ろから思い切りのしかかる。当ててんのよ。

「すーぐーる。何してたの?」
「ん、悟にボカリとモソエナのちゃんぽんを教えようとしてたんだけどね。この通り」

 今から混ぜようってところだったんだ。って、傑が手元に広げていた紙コップふたつを指さした。よく分からないけど、とてつもなくくだらないことを教えようとしていたっぽいことはわかる。混ぜたらどうなるんだろうとか、なぜ机の上でやらないんだろうとか、謎は尽きないけど…。とはいえ、どうえっちに持っていこうか悩みどころだったのだ、これは都合が良い。綺麗なご尊顔を犠牲にするはずだった五条は、硝子がうまいこと連れ出してくれたのか、既にこの場には居ないのだから。

「…知ってる?エナジードリンクって飲むとむらむらしちゃうんだよ」

 そりゃエナジードリンクだからね?と頭にハテナを浮かべまくっている傑の前に回り込み、モソエナを一口飲み、更に一口、口に含む。そして傑の顔を両手で包んで、無理矢理口移しする。口内から液体が消えていくのが、なんか変な感じだ。抵抗せずに私の口からモソエナをごくごく飲んだ傑が、最後に私の舌を吸い口を離した。真っ直ぐ目を見ておねだりする。

「すぐる…」
「…ここで?」
「んーん。部屋、連れてって…♥」



 部屋に連れ込んでもらい、靴を履いたまま縺れるようにキスをする。精一杯背伸びして、傑の首に腕を回して、背中を支えてもらって。
 しかし、私の頭の中は性的な煩悩ではなく別の煩悩でいっぱいだった。ズボンの下に、謎が隠れてる。あの変なパンツ、いつ買ったんだろう。いつも無難に黒とかばっかりなのに。たまにオレンジも見るけど…。私が知らないパンツ。もし女にもらったとかだったら、私傑殺しちゃう。絶対殺せないから引かれるだけで終わりそうだけど、……でも、意中の男性にあんなパンツ、プレゼントする? …ゴム部分こそ黒だったけど、その下の布地の部分、あの、変な、バナナ柄。どこからだっていうの?
 絡めていた舌を離して、息を整えようと解放してもらうと、背中を撫でていた傑の手が脇腹を伝い胸元へ来たから、その手を取って指を絡め制した。気持ち良くなっちゃうからダメ。とにかく私は傑のパンツが見たいの。傑の下着に一枚でも知らないのがあるなんて嫌なの。反対の手を彼の股間に添え、上目遣いでキめる。

「今日は傑から気持ちよくなって?」

 それいけ、とバックルを開けベルトを外し、ファスナーに手をかけたところだった。びくともしない。ものすごい力で傑が私の手を掴み、私の行動を制限している。――まさか、気付いた?

「やっぱりいいよ。まだシャワーも浴びていないしね」
「…傑の匂い好きだよ?」
「私だってそうだけど、…ならはそこに手をついて、お尻を上げられるのかい?」
「先に傑を気持ち良くしたいの」
を気持ち良くさせるのが寧ろ私の喜びなんだ。先にさせて欲しいな」

 絶対、無理だ。傑に先にしてもらうなんて絶対に死ぬ。滅茶苦茶にされる。なんとしても先行しなければならない。

「やだ」
「ね?シャワーを浴びてからにしようか」

 ゴネる。この男、ゴネてくる。やっぱり、気付いた? シャワーなんて許したら、先に入っておいで、って間にパンツ履き替えるに決まってる。一緒に入ろう、とかは、恥ずかしくって言えないし、先にトイレ行ってくるよとか言われるに決まってる。存外横着なところがある傑は、また脱ぐんだから一緒だよ、とか言って脱いで来たりする。絶対する。そして私は傑のパンツの謎が解けないまま、明るい中で裸を見られるという凄まじい羞恥プレイをくらうだろう。
 何回もそういうことしてるって言っても、恥ずかしすぎて絶対に暗くしてもらってるから、明るい中でしたことなんてない。玄関は窓から遠いとはいえ、まあまあ明るいから、どっちにしろ私は今ここではパンツを見るつもりしか無いのだ。今ここでするとか、恥ずかしすぎて絶対無理。…でも、指先に触れている質量は点で衰える気配が無くて、…困ったが、とにかくコレを秘めているズボンを脱がせれば勝ちなのだ。

「…ねえ、我慢できない」
「私だって、が可愛くてもうこんなだよ。分かるだろう?」

 傑がさりげなく、私の手をファスナーから、中のモノを確かめさせるような位置へと移動させた。これではチャックが開けられない。

「今すぐにでも君と一緒になりたい。君を気持ちよくさせて?」

 ぴったり詰め寄られ、私の首元に顔を寄せる傑に甘い声で囁かれてしまい頭がおかしくなりそうだ。しかし、ここで引くわけには行かない。でも、なんて言ったら。
 傑、と名前を呼ぶと向き合ってくれたが、表情が読めない。抗議の目で傑を見上げ続けるが、傑は一向に私の体を撫で続ける。傑に躾けられ始めている体が、自分のものじゃないみたいにぞくぞくと背筋を跳ねさせて、耳に指を入れられたり、首筋をなぞられたりする度に、どんどん蓄積する熱が私の思考を奪っていく。この人は本当に、毎回毎回前戯に時間をかけて私のことばっかり気持ち良くして、独占欲も強いのに、全然こっちにはさせてくれない。傑の硬いそれが、彼が私に興奮してるってことを伝えて来て、焦らされているように思えて来てしまう。素直に言うことを聞いてしまいそうになるの。なんだか犬と飼い主みたいだ。全部傑の思うままにして、って言いたくなっちゃうの。…私は傑のパンツが見たいのに。でも、諦めれば。今この瞬間にも、彼は私を快楽の渦に落としてくれるだろう。君が好きだよって全身で伝えてくれながら、甘い快楽をくれる。よし、って言えば、よし、ってすれば。パンツを、諦めれば。

「…すぐる」
「うん」

 いつの間にか私のシャツはスカートから引き出されていて、傑の手が直に素肌を撫でていく。ぷつり、と彼が片手で背中のホックを外す。もう片方の手で、前ボタンが一つずつ、一つずつ、ゆっくり丁寧に外されて、傑の視線は私の胸に釘付けだ。…ずるい。

「私も、傑のパンツ、見たいのに……」

 傑が固まった。背中から手が引いて行って、胸元からも手が離された。その手を顔に当てた彼は、はあ、と溜息を落とす。私は一気に我に返った。もしかして引かれてしまったんじゃ、恥ずかしい女と思われたんじゃ、でも、でも見たいし、…っていうか、もしかして今日はもう終わり?こんな寸止めみたいな状態で?どうしよう、って思いが混ざり混ざって、涙がじんわり浮かんできてしまう。泣いたらもっと面倒くさい女になる。だめ。

「…珍しく積極的だと思ってたけど、……

 ぎゅっと抱き寄せられて、スカートの中から内腿に手が這った。傑の顔が見たいのに、上を向こうとする私を許さないとでも言うように、身動き取れないくらい強く抱き締められてしまう。引かれたわけじゃないのかな、大丈夫かな、と混乱していると、内腿を撫でていた手が、ショーツの上からそこを包み込むように揉み始め、すりすりと陰核を弄りだす。逃げようと腰をよじってもガッチリ抱きすくめられて逃げられなかったから、って、言い訳で、快楽を追い求めるように彼の指にそこを押し付けてしまう私も私だ。我慢の限界だった。

「すぐる、パンツ見せてよぉ、エッチしたい」
「君が見せてくれたらね」

 向こうから日が差し込んでいる室内で、私はあられもなくスカートを捲り上げた。傑が選んでくれた、黒いレースのえっちなパンツ。まばたきしてる?くらいに、傑は私のパンツを凝視している。

「一緒に買いに行ったやつだね。可愛い」

 パンツくらいなら、って思ったけど、そんなに見られると恥ずかしい。もう無理、ってスカートを下げようとしたら、彼がクロッチをずらして指を入れて来た。

「んっ、や、約束が、ちがう、!」

 ナカに入ってる指が上壁をしつこく擦ってくる。もう片方の手では胸を揉まれ、必死で彼にしがみつくことしかできない。気持ちいい。可愛いよ、って囁かれて、きゅんってしてしまって、私の声で興奮したの?なんて言われてしまう。どんどん顔に熱がのぼっていって体が震えて、呆気なくイかされた。

「すぐ、る、の、ばか。うそつき。もう、きらいに、なるもん…」
「…嫌われるのは困っちゃうから、見せてあげないことはないけど、笑わないって約束できる?」
「…ん」

 傑は頷く私を玄関の上に座らせると目の前に立って、優しく頭を撫でてくれる。彼の丸い指の腹が頭に触れて、さらさらと髪を梳いてくれるのが心地よい。

「悟が土産ってくれたんだ。捨てるのも勿体無いから、一人のときに履こうと思っていただけで」
「ん。早く脱いで。傑の、ちょうだい」
「…笑ったら分かってるだろうね」

 傑がチャックを降ろした。視界一面に飛び込んでくる、ボンタンから開放されたパンツ、……五条なんでこれを選んだの?ネタでしかないじゃん。こんな、こんな、股間部分にバナナの皮って。傑の凶悪バナナをここからこんにちはさせたらいいの?これトイレするときどういう気持ちなんだろう。ふ、と響いたのは私が吹き出した声だった。

「ごめ、っごめ、おもしろい、っふ、ふふ、ふふ、かわいい、すき、」

 この後滅茶苦茶犯された。

シークレット・ビロウ

title by トロニカは星を巡る