暑い。真夏も吹っ飛ばすぐらいのあおはる真っ只中である高校男児、二名。ド田舎僻地での任務を適当に片付け翌日の休暇というボーナスステージへ挑んでいる。呪霊を祓ったおかげだろうか、ここまでピカピカに晴れるのはありがた迷惑とも言える。

「暑いんだけど」
「ああ……。でも砂漠のオアシスが見える。あそこまでは辿り着こう」

 傑に『似合う』と言われた麦わら帽子を目深にかぶり、海の匂いがする方へ歩いて行く。その途中だった。“かき氷屋”があったのは。

 残念ながらイートインは無かったが、テイクアウトで、期間限定と大々的に書かれているなんとかレモン、いや今そんな無駄な酸味という刺激は必要ない。それを早々に脳内で却下した俺は、張り出されている手書きの文字を追いかける。イチゴ、ブルーハワイ、……ブルーハワイ?

「傑。ブルーハワイって何。青いホノルル?」

 知らないのかって目をぱちぱちしながら、暑くて死にかけなんだろうクソ面倒くさそーにだけどあーとかあーとか言いながら傑が説明しようとしている。

「……いざ何と言われると形容が難しいな。興味あるならそれにしなよ」
「イチゴと迷ってんだよ」
「すみません、ブルーハワイとイチゴひとつずつ」

 傑が勝手に注文し、俺一個でいいんだけど、イチゴは私のだよ、なんて言いながら代金を払って少し経つと、溶ける方が先じゃね?ってくらい氷モリモリのかき氷が手渡された。すぐそこの日なたのベンチには二人目もくれず、少し先のベンチまで競歩かという速度で移動した。ドカッと腰を下ろし手の中のもので涼を取る。

「俺コレ食べんの初めてかも」

 もはや声も出ないらしい傑は隣に腰を下ろしている最中も半分くらい白目を剥いてやがった。よく俺の顔面崩壊、注意する癖に自分はいいのかよ。失礼なヤツ。
 俺は少し下を向いて、グラサンの隙間からしげしげとかき氷を観察する。何で色つけてんの?ってくらい強烈な色。どーいう味がするんだろ。と、さっきからがっついている隣の傑クンを参考にして、ぶっ刺してあるストローの匙でひと匙掬い、口に入れてみた。……ふむ。

「悪くないけど、何、……シロップの味?」
「ああ。そんな感じかな」

 さく、さく、とかき氷に匙を入れる音だけが響く。ミンミン蝉が鳴いてる声が完全にBGMになっていた。さくさくちょこちょこ掬っては口に入れ、掬っては口に入れ。
 しばらく赤と白のパーティーカラーみたいなカップに額や頬をくっつけてもみたが、やはり冷える速度が茹る速度に追いついていない。ちょっとずつ口に入れるのも面倒になってきたので、大口でかき込む。それが間違いだった。歯にしみるというのか、頭までキーンとなる感覚。五条悟、死亡。

「くく、ダサいな」
「うるせー……」

 背を丸め悶え苦しんでいたが傑が笑ってやがんのにムカついて顔を上げて傑を見る。グラサン越しにバチッと目が合った。傑が至近距離で、少しずり落ちていた俺の麦わら帽子を正してくる。

「知ってる?ブルーハワイって……」

 意図せず覗き込まれた形に、視界一杯が傑だけになって息をのんだ。即座に外された視線に呼吸の仕方を思い出し、ふ、と息を吐く。なんだったんだよ。
 傑は「あー……」と言い淀んでいる。……なんだよ!
 俺は動揺を見抜かれないように、極めて平静を装って続きを促す。

「なに」
「なんでも」

 は? 開けた口にはイチゴ味の傑のを突っ込まれた。瞬時に舌の上で溶けだすそれに反射的に口を閉じる。うーん。色と匂いは紛うことなきイチゴだけど、味はさっきと一緒じゃね? 鼻に抜ける安っぽい香料がこれはイチゴですと主張してくるだけ。ってような気もすれば、特別なイチゴ味に思えるような気もするし。まあ、ぽい、つっちゃ、ぽい。

「……同じ味な気ィする」
「まあ気持ちはわかるけど」

 ん-。と悩んでいると、「悟。舌出して」傑に自身の顔を掴んでいたらしい自分の手を掴まれた。「あ?」ぷ、と傑が笑う。

「青と赤で紫になったよ。今の悟の舌の色」
「あ゛?」

 毎度のごとく傑が小言を言うオッエーをしてから傑の唇の間にちらちら見え隠れしている舌、目がけて噛み付いた。オマエも紫になるべきだ。手加減なしに唇に吸い付いてオラ口開けろ!と攻め立てる。固まっていた傑はようやくハッとして口を開けた、その瞬間にヤツの口内に潜り込んだ。ちべてっ。……!! かき氷は局地的に冷えるけど、かき氷食ったヤツとキスすんのは口が全体的に冷える!?これは世紀の大発見か?さすが俺。涼を求めて傑の舌を舐め回す。段々ぬるくなってきてやっている異議が分からなくなってきた。「ん゛ー!!」と鼻にかかった唸り声をあげながら本気で俺を押し返してきている傑と戦っている俺の筋肉もキツくなってきた。そもそも何故俺は傑と口付けている? いやだって赤と青が混ざって紫、お前はイチゴ、俺はブルーハワイ。蒼と赫、タッグ、ミックス、ぐるぐる、茈。
 ぷは、とやたら可愛らしい声が聞こえ、傑とぶっちゅうしていた口が離れた。蒼と赫をぐるぐるしても茈ができる兆しは一向にないし、ちゅーして反転ぶちこめるらしいその手応えも全く感じられない。これ以上強くなるには一体どうすりゃいーんだろ。

「何するんだ!!」

 今日イチの大声半ば怒声プラス大口。さすが傑の大口。俺の小顔だったら顎外れちゃってるよ。つかなんでそんな怒ってんの?え?とかあ?とか言いながら俺は一つのことに気が付いた。当初の目的達成されてんじゃん!!!

「~~ッシャ!!オソロじゃん。傑の舌も立派に紫なってんぜ」
「っだ~~……そんなことのために私にキスしたのか……」

 ぷぷぷぷぷと指さして笑ってやったのに傑は頭を抱えている。

「夏は人の頭を狂わせるんだってよく分かったよ……」
「お前も夏ってついてんじゃん」
「……そうだな。悟も狂ってるけど、私も悟に狂ってるかな」
「ふーん?」

 よく分かんないけど、溶けかけのかき氷が差し出されたから交換する。溶けかけなのもあって多少急いで食っていくのに、あっという間に液体になっていく氷。転じてシロップ水。このためにストローになってんのかなとか色々考えは過るが、すするのはちょっと俺の中の行儀が咎めっから、カップを傾け天を仰いで喉を通す。真上にあるギラギラの太陽は、さっきっから何も変わらず、強すぎる光で全てを暖めている。かき氷ってやつは直ぐに溶けるし、隣で傑も茹ってるし、汗も湿気も鬱陶しくてたまらない。けど、さっきまでは鬱陶しいだけだったはずなのに、こんなのもいいか、と感じられた。こんな夏が、ずっと来ればいい。

或る日、在りし日、拝啓夏