告白する  あれからまた狡噛くんの頭を撫でるようになった、やっぱり一番撫で心地がいい。和久さんにもお礼を言われた。大丈夫だろうか、まさかスキンシップが取られないだけで鬱みたいになるワンチャンのように私がしてしまったんじゃないだろうか。誰か他の人も彼を撫でてあげてほしい、なんかごめん。しかし最近また和久さんがこちらをちらちらしてくるんだ、何かあったんだろうか、はたまた私がまた何かしでかしてしまったんだろうか。

 今日はフリー勤務という名の残業だったので、確認したいこともあったし三係に行って、帰り際に狡噛くんを呼びつけて廊下で対話を試みてみた。いつも通り腕を伸ばしてみたが彼は頭を折ってくれなかったので、撫でられなかった私の手は行き場をなくして彷徨う羽目になっている。

「…また何かあった?大丈夫?}
「…すみません、やっぱりもう、触らないでください」

 どっちなんだろう、なんでなんだろう。苦しそうに告げた彼の意図が読めなかった。オフィスはガラス張りだからどうせ中からこちらの様子は見えてるだろうし、全く理解できなかったので皆何か知らないかなと再度ドアをくぐったらブーイングの嵐だった。狡噛くんは私の脇をすり抜けてデスクに帰って行ってしまった。そんな彼を守るように各々が私を見て口を開こうとしている、ぶっちゃけ怖い。迫力がすごい。

さん、少しご自身で考えてられてみてください」
、コウが不憫だ」
さんって罪作りですよね」
さん、狡噛さんが可哀そうです!」
さんはぱっぱらぱー」

 和久さんが口火を切ってフルコンボが決められた。全く参考にならなかった。静まり返った三係からそっと後退った。三係にまるで居場所がない。悲しくなったので早々に二係に避難したが出動していてもぬけの殻だった。そういえばさっきエリアストレス警報を聞いた気がする。でも一係にまで行く気力は無い。休憩にしてやる!うわーん!と休憩室に行ったら先客がいた。

ちゃ~ん」

 気色悪い声で私を呼ぶ佐々山の気は狂ってしまったらしい。

「どうしたの光留く~ん」
「おーまーえーはー、」

 アホみたいな裏声で呼び返せば、たっぷりためた佐々山が、

「バカかーーーーーーーーっ!」

 アホみたいな怒号でジャーマンスープレックスをきめようとしてきたので「わああああああ!!!」ソファに転がって沈んでぎりぎり避けた。のに、「本当にバカか?バカだろ、そこまでバカとは思ってなかったわ」上から跨ってきた佐々山が私のジャケットのボタンをはずし、襟元を無理やりひっぱってその手を下に滑らしたんだろう、素肌に佐々山の指が当たりシャツのボタンははじけ飛んでいく。え?え? 靴をつけないように気を使っていたのにもはやそれどころじゃなくなってしまってあとでこのソファ拭かなきゃいけなくなってしまった。「え?えっ、佐々山?」その手を止めようとあわあわしていたら、両腕が一纏めに頭上にあげられてしまった。佐々山には片腕が残っている。「おーおー怖いか?」「…佐々山は理由もなく、こんなことしない」「でも怖えだろ、震えてんぞ」つつ、とむき出しになった私の鎖骨を彼がなぞった。「びっくりはしてる、」「じゃあお前が泣き叫ぶほどひどいことしてやろうか、そしたら気付くか?」「…へ?何に?」「…ピヨ噛。っつーかお前この状況だぞ、とりあえず危機感持てよ」「…きっと佐々山そんなことしないもん、それに、狡噛くんって「してもいいつってんだろ、何、それともされたい?俺は別に恋愛感情として興味が無くても女となら出来る。お前結構いい体してるしな、一回くらい相手してくれよ」……っやだ、」「お?」
 …お、ってなに。するりと佐々山が私の首を撫でている。冷た! 彼の手がデコルテを弄って、…待って? いやでもこいつおさわりくらいなら平気でするかも、っていうかしてる、まだ鎖骨だけだけどされてる、セクハラ大魔王、私は普段幸運にもされなかったので油断していた、だからって素肌はないでしょ今度始末書書かせてやる、離してほしい、ビクともしない、少し怖い、人として何を考えているのか分からない。しばらくしてその手が下がり始めたので硬直した私と「やっぱ胸デケえな」しみじみと呟いて、一度手を離した佐々山は手をわきわきさせている。そうだシャツは死んでしまったのでもう防御は無いし下着見えてるのではちょっと待って、待って?待って、「っ佐々山、やめて!」大声をあげたら、「…佐々山!?何してるお前!」何故だかタイミングよく入室してきた狡噛くんが佐々山を横っ腹から地面に蹴り飛ばした。わりかし凄い勢いで佐々山が床に転がり落ちた。びきっと佐々山のこめかみの神経が浮き上がったのを見た。やばい、キレる。咄嗟に立ち上がって駆け寄って、佐々山が起き上がって来る前に転がっているその背中を思いっきり足蹴にした。彼が勢いよく立ち上がって狡噛くんに殴りかかるでもしたら私はこのまま転倒して怪我をする仕組みだ。後ろには角が激しく攻撃的なテーブルが存在する。まだそれくらいは頭にあると信じたい、お願い。

「――佐々山!待て!お座り!命令です!」
「俺は犬じゃねえ」

 そういいながらもやはり私に怪我をさせる意図のない彼はゆっくりと立ち上がったし理性を飛ばしていないようだった。

「ハウス!」
「っるせえ!言われずとも帰るわ!」

 その場を立ち去っていった彼にほっとして、深く息をついて、ふらふらとソファに戻って座り込んだ。ここ数分で何が起きたのか理解が追いつかない。とりあえず前がスースーする。もし狡噛くんが来てくれていなかったらどうなっていたんだろう。でも、やっぱり佐々山は冷静だったんだ、きっと何かを教えてくれようとしたんじゃないか。でも分かんない、びっくりした。

「……ッさん!大丈夫ですか、」

 しばらくして私を見た狡噛くんが絶句している。それからおもむろにジャケットを脱いでそれを差し出してくれた。私がそのまま彼の手を取って促したので、迷いながらも彼は隣に座って、目線を明後日の方向にやりつつも、そのまま動かない私の肩にそのジャケットを羽織らせてくれた。彼のジャケットは私にとってコートだった…?けどこれ前から羽織らないと意味ない気もする。私のシャツのボタンは死んでしまったので。どうしよう。どうしたらいいか分からない。私はやっと、肩にかかっている彼のそのジャケットをぐしゃりと抱きしめた。本当は今すぐ狡噛くんに抱き着きたい、安心したい。ちょっと吃驚している、動揺している。でも狡噛くんはもう触らないでっていっていたし触れない。分からない。つらい。

「ごめん、狡噛くん、私わかんない。私君に何をしたの?」
「今そんなことはどうでもいいんです、佐々山に乱暴されたんですか、」
「されてない、みんなも佐々山も狡噛くんのこと気にかけた結果だと思う」
「はあ!?」
「ねえ、私何かしたんでしょ?ごめんなさい、はっきり言われないと分からない、それに私、狡噛くんに触りたい、でも君が嫌ならもうしな「嫌じゃないから困ってるんですよ!」…え、っと?」
「だから、俺は――佐々山があんたに触れたのが許せないし、……あなたが他の人を撫でるのを見るのも嫌だし、俺だけを撫でてほしいと思ってしまうんです、」
「じゃあそうする、これから」
「……意味分かってないでしょう」
「分かっ……んんん?なんでそうなのに触らないでって言ったの?わかんない」
「…俺だってさんに触れたいんです、だから触られると我慢が効かなくなりそうで、」
「???狡噛くんなら触っていいよ」
「っだー!」

 狡噛くんがさっきの佐々山みたいに私を押し倒して、こうすればわかりますか、と複雑すぎる顔で言った。馬鹿みたいに安心したので彼の背に腕を回したのに抱きしめ返してもらえなかった。そりゃそうか、そういえば私たちただの同僚であり先輩と後輩なだけなのになんなんだろう、私は狡噛くんをなんだと思っていて狡噛くんの何様だと思っているんだろう、もし狡噛くんに特定の相手とかが居たら非常に失礼なことをしていたし狡噛くんも嫌だろうに、嫌に冷静な心と裏腹、じわりと目尻に浮かんだ涙は止められなかった。狡噛くんが私の顔を見てぎょっとして離れようとしたので彼の背中をもっと強く抱きしめたら、離れるのをやめて頭を撫でてくれた。
 しばらくそうして少し落ち着いて、あーあ、と思った。抱きしめ返してほしかった。佐々山の時はこうじゃなかった、全てが違った。――さすが佐々山、あいつ取り調べとかもうまいんだよね、ただカッと怒ってるように見えて、…捜査中、本当に理性を失っている時もあるけど。だから、やっぱり佐々山は私に乱暴する気なんてなかった、そうだ、そういえば狡噛くんはこの時間帯に休憩を取るのが常で、コーヒーを買いにここに来るんだ。多分、佐々山も知っていたんだろう。バカみたいな兄貴分、あいつ。やっぱりあの人凄いんだよな。私は、自分がそうだったらしいということを、今まさに彼の功績によって自覚させられてしまった。今の今までそんなこと思ったこと無かったのに。だめだ。

「…私、狡噛くんのことが好きみたい、ごめん」
「なんで謝るんですか。……俺は、さんのことがずっと好きでした」
「え?えっと、ありがとう」
「っ待ってくださいどういう意味ですか、俺は!触れたいと思うのはさんだけで、ずっと一緒に居たいのも、隣に居てほしいのもさんだけで、俺だけのものにしたくて、なってほしくて、さんの一番になりたくて、ただ一人だけ、一緒に居て欲しい人です、伝わってますか」
「………えっと、あの、わ、私も、その、え?」

 自覚した想いを口に出してしまったら、何か突然告白大会が始まってしまって吃驚している。頬が熱いしドキドキするし次の言葉がうまく言えない、何を言ったらいいかも分からない。だって彼は天然で返答していてその所業であるのだとずっと思っていたけど、違ったのかもしれない。本人からその旨非常によく補足説明がつけられた。や、でも、まだ混乱している。狡噛くんが?
 もう一度言っていいですか、とむくれた真っ赤な顔で狡噛くんが言って私をじっと見た。こんなに近距離で目を合わせるのは初めてだった。まず顔が好き、体も好き、やだ私ろくでもない人みたい、でも優しいところも人をさりげなくよく気遣うところも丁寧なところも礼儀正しいところも狡噛くんを狡噛くんたらしめている狡噛くんが好きになってしまっているのでもうしょうがない。なんで、いつから、分かんない。

「好きです、さん」
「…わたしも、わたしも狡噛くんのことが好き」

 目が合っていつかみたいに微妙な空気になってしまって、それでも私たちはもうそれを自覚している。狡噛くんはあの時どうだったんだろうか。少なくともあの時私は知らなかった、んだけど。…あああ、あああああ。色々と思い返すと自分の行動が恥ずかしくなるし、狡噛くんはもしかしなくてもやっぱり天然じゃなかったのかもしれない?もう分からない。というか周りにはダダ漏れだったんじゃないか、自分が最後の最後まで気づかないとは…、でもだって!こんな可愛いかっこいい人が私に気があるなんてもしかしてとすら思わない。思わなかった。そんな彼が私を見詰めていた。「…キスしていいですか」なんで聞くの!?
 彼の首に腕を回してぐっと近寄せて、私は自分から彼の唇を奪った。「きかないでよ」「さん、真っ赤」「狡噛くんだってそうだよ!」彼のおでこにぐりぐりおでこをあわせてその綺麗な灰色の瞳を見る。もう自棄だ。「好き、好きだよ狡噛くん、大好き!」「…夢みたいだ」今度は彼が顔を近づけてきて、私の唇を奪った。軽く唇を合わせるだけなのに、さっきから頭が沸騰してしまいそうにくらくらだ。唇が離れて、切なそうにはにかんだ彼が上体を起こして、私を起き上がらせた。彼は目を泳がせて、私の下敷きになっていた彼のジャケットを拾い上げて前から私にかけた。ああ、忘れてた。
 そこで、突然誰か入室してきた――佐々山だ。彼はこちらを一瞥し、されど気にもせず、流れるような動作でドリンクサーバーのボタンを押した。ガコンとサーバーが何かを吐き出した音が聞こえる。
 狡噛くんは自身の胸に私を隠すように抱いて、私の反応を見守っていた。私は自分のジャケットを漁ってポケットからタバコの箱を手に取って膝立ちになって、狡噛くんの肩口から顔を出して「佐々山」潰れているそれを放り投げてやった。報酬をやるのが礼儀でありコツだ。
 タバコの箱をキャッチした佐々山は「やっとくっついたか、うっぜーんだよお前ら」よかったなお幸せに、と出て行った。様子を見に来てくれたんだろう。佐々山は優しい。