大惨事だ。目の前にはちょっと残念な物が出来上がっている。食べられる程度ではあるが、食べたくはない。
「いいんですよちゃん。コツは電子レンジです!マイクロウェーブ!」
「チーン」
花表さんは変な効果音を口に出すのが趣味らしい。彼女が、温められ、ほかほかとおいしそうなパスタを私にくれた。
「……これは冷凍食品っていうんですよ」
慎也さんの不摂生が気になったのだ。時々、彼のカバンの中には経口摂取高カロリー液が入っている。その日は疲れていて、玄関で私を抱きしめて結構な時間崩れ落ちるのが通例だ。聞けば、事件が凄い忙しくてご飯が食べれなかった日だと次第に分かった。
「いいな~、狡噛さん愛されてますね。お弁当作りたいなんて」
「食べれないときがあるって聞いたんです。…刑事さんってそんなに大変なんですか?」
「そりゃもう、事件があれば!血みどろですよ~!」
きっとそういう日なんだろう。ときたま怖い顔の日、私をひどく抱く時は。私が息も絶え絶えになり、慎也さんが冷静さを取り戻すころ、彼の空腹が悲鳴を上げるのだ。空腹とそういう欲は似たようなところにあると聞く。もう少し良くならないだろうかと思ったのだ。
「ヒナ、この人はクリアカラー」
「あぁそうでした!ごめんなさい!」
慌てる天利さんと対照的に、冷静な花表さんがお箸を持って、少し頂きます、と、私が作ったものを一口食べた。ひどい表情になった。そっちの方が傷つかないことは無い。
私はもう、おかずを作るのを諦めていい気がする。作れないのなら出来合いのものと出来合いのものを合わせたらいいんだ。スイッチを押すだけだって料理に違いない。手を使ったら料理。
いつか取り寄せて、冷凍していたシャケを取り出す。
「解凍します」
「チーン」
「切ります!」
「握ります」
「出来ました!」
「手軽でいい気がします」
花表さんが微妙な目で私たちを見ている。おにぎりを買えばよくないかという疑問については思考停止することにする。
*
「慎也さん、ご飯」
「?今食ったろ」
彼女が何か言いたそうに俺を見ている。何か、撫でろというオーラを感じるので、よく分からないが撫でくり回してやる。彼女が気持ちよさそうに目を細めた。可愛い。
「コーヒーだけじゃなくて、おにぎりが作れるようになりました。天利さんと花表さんのおかげです」
「…お前、おにぎりも作れなかったのか?」
「…アイディアの話です」
む、とふくれた彼女が、後ろ手に持っていたらしい細長いタッパを俺に持たせてきた。妙な形だ。こんなタッパあるのか。開けると中には、ラップに包まれた握り飯が何個か入っている。へえ。
中身は、と聞こうと顔を上げたら、増して褒めてオーラを纏っているがいた。
「もっと褒めて」
「よーしよしえらいえらい」
「昔を思い出します。棒読みです」
タッパを鞄に突っ込む。今日は事件が起こってもメシにありつけそうだ。じわりじわりと幸福感が胸の辺りを包んでいく。彼女が俺のためを思って作ってくれただろうことが何よりも嬉しい。もっと褒めろと顔で語っている彼女の頭を抱き込み撫で回す。
「遅刻します」
塩対応だ。中身は塩にぎりだろうか。絶対に甘いに違いない。
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