しばらく慎也さんが帰ってこないらしい。出張で地方に行かなきゃいけないらしい。
 少し眠かった朝、見送るときにいきなり言われた。夜はやけに甘えただったから。そうですか、いってらっしゃい、といつも通り送り出してから三日が経過した。
 あの日、二度寝から目覚めた私は、いつ帰ってくるのか聞くという重大なことをし忘れたことを思い出した。でも慎也さんも言わなかったので見通しが立っていないのかもしれない。

 連絡は律義に来る。朝におはよう、休憩時間に景色が綺麗だとか、夜に今話せるかおやすみ。毎回、ちゃんと飯食ったか、と短文が入っているのは面白い。

 段々とオートサーバーのご飯を食べるのが面倒くさくなったのと、だって初日に久しぶりに開いたデバイスの広告にお茶漬けがあっておいしそうだった。
 だからそのために、適当な食材を一日一つ取り寄せて、今日はこれを食べました、とつまみながら食材の写真を送っては、おいしかったのか?と返される日々が続いている。微妙な顔で打っている彼の顔が目に浮かぶ。お茶はおいしかった、生米はあまりおいしくなかったけど海苔はおいしい。

 お昼頃、慎也さんが送ってくれる風景の写真はとても綺麗で、けれど花の写真に反応してしまったが最後、昨日の捜査中に見つけた、とか、勿論ホロではない珍しい花の写真とかを送ってくれるようになった。…くすぐったい。

 夜は大抵シャワーを上がってからかけてくることが多くて、別に私はいつも暇しているんだからいつかけてきてもいいですよと言ったら突然かかってくるようになった。
 コールだけを取って、画面に映し出される慎也さんの顔に一人勝手に癒されていると、“顔、見せて”と言われるのだ。恥ずかし気な拗ね気味なその声がききたくて、その顔が見たくて、いつもコールだけでとるという地味ないじめをしている。声もいいゴリラめ。
 そう、彼のゴリラ具合は変わっていない。上半身裸でかけてくるのはやめてほしい。私のデバイスには画面録画アプリが増えた。仕方ない。



 彼を送り出してから数日が経過した。私たちはそのような日常を未だに送っている。
 いつ帰って来るんだろう。もし私が刑事課の関係者だったなら、もう少し詳しく知れたかもしれない。怪我とかしていないだろうか。何かあったら和久和久さんが直ぐに知らせてくれるだろう、と思いつつも、ひたすらに待っているのは少し不安だ。



 おはよう、何だか早朝と呼ぶにもおかしい時間帯に連絡が入っていた。私は今起きた、絶賛昼である。
 彼の昨日のおやすみは日付が変わっていた。仮眠しかしていないと思う。体を壊さないで欲しい。彼の睡眠時間にはあと三時間足りない。……なんで知ってるんだろう。知ってるからだ。普段、私は彼が寝る前に寝落ちすることが多いし、そういう次の日にはばっちり二度寝をしている。一緒に住んでいれば知っていることは多い。…たまに変なところを知らないのは面白い。

 今日の朝ごはんは取り寄せていてやっと届いた煮干しだ。帰ってきたら慎也さんに小分けにして渡して、仕事場に持って行ってもらおう。仕事中のバリバリ慎也さんにはバリバリカルシウムが必要とされている。

 ここ一週間で、お茶の葉にお米に海苔にかつおぶしなど揃えてしまった。けれどお米の炊き方が私には分からない。一人で出来る気もしない。だから私はまだお茶漬けが食べれていない。

 とにかくカルシウムを補給した私はついに彼のシャツを引っ張り出した。禁断症状が出始めている。寝室に戻って電気を落とす。私の家はいつだって真っ暗になれる。早く帰ってきて欲しい。
 彼のシャツを上から羽織って普段彼が寝てるところに埋まる。残念ながらシャツは洗濯してあるのであんまりそこまでではない。悲しい。このシャツから着想を得たい。彼のゴリラ具合と優しさを思い返そう。思い返していないと死んでしまいそうなのだ。とても恋しい。