「」
「はい」
「…、おい」
「なんですか」
狡噛さんが貸してくれたのに。おすすめだ、というその本を読んでいたら話しかけられた。十分も経っていないと思う。向こうに座っている狡噛さんが呼びかけてくるせいで、本の中身が頭を滑り気味だ。
「」
またそう経たないうちに、今度は直ぐ頭上から声が飛んできた。威圧的な声色だ。仕方ないので本から目線を外して影が差した方に首を向ければ、いつの間にやら彼は、私が寝そべっているソファの脇にやってきていた。狡噛さんはたまにこういうところがある。面倒くさくなった。本を閉じた。
「…狡噛さんって、意外と人懐っこいですよね」
「……いいから、こっち向け」
彼が私の手から、本をするりと取り上げた。拗ねた声だ。狡噛さんは応答が欲しい派の人だ。それに結構放っておくと話しかけてくるのだ、コミュニケーションが取りたいらしい。
「お前は本当に撫で心地がいい」
そんな彼は今、私の頭を撫でつけている。私はその手に頭をすりつけながら困惑している。狡噛さんは至極満足そうに殊更強く撫でつけてくる。彼はずっと私の目を見ている。今読むなというのか、読みたかったから借りたのにあんまりじゃないか。というか何でそんなに嬉しそうなんですか。
「…私の頭に癒し効果は付与されてませんよ」
「いいや、されてる。絶対だ」
…狡噛さんは最近こういうことが多い。恥ずかしいことを平気でする。頬が熱くなってくる。正直こちらが恥ずかしく思っているばかりなんじゃないかと憤りすら感じてくる。彼の優しさに満ちた瞳から目を逸らして俯いた。そしたら彼が膝をついて私と目線を合わせてきて、目を合わせたらはにかんだ。……なんというか、非常に積極的で、今まで作られなかった甘い雰囲気を感じるというか、作られているというか、その。
「いつまで撫でてるんですか、もういいでしょう」
「なんで」
「…なんでってなんですか」
「俺はいつだってお前に触れていたい」
「~~っ知りませんよそんなの、撫で心地がよかったからじゃないんですか…」
心臓がうるさい。狡噛さんは甘えただ。やめてほしい。…別にやめなくてもいい。悔しいので、律義にしまい込まれている彼のネクタイを引き出して遊ぶ。
「なんだ」
「…狡噛さんばっかりずるいんです」
なんだか余裕そうにしている狡噛さんが気に食わないので、シュルシュルと指に巻き付けていたネクタイをくっと気持ち引き寄せた。ん、と狡噛さんが頭をこちらへ差し出す。反対の手で彼の頭に手を伸ばして、その頭を撫でる。狡噛さんはジト目で満更でもなさそうに、されるがままにしている。…少しきゅんとした。…ことはない。…可愛くないことはないのでその頭を抱き込んだ。狡噛さんは抵抗しない。このまま首をロックされるという概念はないんだろうか。…しないですけど。
「…悪い、恥ずかしいもんだな」
「遅いですよ、気付くのが」
顔を見られるのが恥ずかしいので、私が少し腕に力を込めて更に彼の頭を抱き込むと、狡噛さんも私の背に腕を回した。どうやって離れたらいいんだろう。
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